配偶者居住権の創設で、万が一の場合の住まいはどうなる?

相続・贈与

「配偶者居住権」による節税効果の内容

配偶者居住権は、相続税の節税効果も期待できます。
自宅2,000万円のうち、妻が1,000万円の配偶者居住権、子が1,000万円の負担付き所有権を相続したとします。すると、それぞれ1,000万円を相続したとして相続税の対象になります。

その後、妻が亡くなったら、配偶者居住権は消滅します。消滅したら、妻から子に相続するものはないので、相続税の対象にもなりません。このことから、配偶者居住権を設定したほうが、トータルで考えると相続税の負担は軽くなります。

ただし、配偶者居住権は自動的に設定されるわけではありません。遺言や、遺産分割協議で決めるだけではなく、不動産の登記簿謄本に登記をする必要があります。
登記をしないままにしておくと、新しい所有者が勝手に売却することもあり得ますので、決して忘れてはいけません。
参考:国税庁 相続税法基本通達「第9条《その他の利益の享受》関係 P4」

配偶者居住権の注意点

遺された配偶者にとって「配偶者居住権」はその後の生活において、住み慣れた家に住み続けるための権利として心強い制度ですが、注意点もあります。その一部をみていきましょう。

固定資産税などの税金の負担がある

固定資産税は、通常、建物や土地の所有者が負担するものとされていますが、配偶者居住権が設定されているケースでは、配偶者が負担することになります。
家を建てた時期が、子どもの独立前など家族で住むためであった場合、配偶者居住権を取得した妻が一人で暮らすには広く、固定資産税の金銭的な負担が重くのしかかってくることも少なくないでしょう。

配偶者自身が家を売却できない

前述の固定資産税など必要費の負担などから、自宅を売却してそれまでより小規模な住宅へ引っ越しや、高齢者施設に入りたいと思っても、配偶者居住権はあくまで「住むことができる権利」のため配偶者の判断で売却することはできません。

建物の権利が共有名義のケース

配偶者である夫が亡くなる前の自宅建物の権利が、配偶者である妻以外の場合(たとえば夫と子の共有)、配偶者居住権を設定することはできないため、注意が必要です。配偶者である夫と妻が権利を共有している場合は、配偶者居住権を設定することができます。

今後はどうなる?FP視点の予想

配偶者居住権は、老後の暮らしを守るものですが、遺産分割協議がスムーズにいく保証はありません。そのため、遺言はしっかり作っておく必要があります。
今回の相続法の改正では、自筆証書遺言の財産目録をパソコンで作れるようになったり、法務局で保管ができたりするようになりました。

これまで自筆証書遺言は、財産目録も自筆で作成しなければならないため負担が大きく大変でした。
また、保管場所は自宅であることが多く、せっかく遺言を作っても、なくしてしまったり、捨てられてしまったり、あるいは書き換えられてしまうおそれがあるなどの問題がありました。
しかし、法務局に保管されていればその点は安心できます。

人生の締めくくりを、お金の面でもきれいにしておきたいと考えるシニアが増えることで、終活は今後ますます関心が持たれることになるのではないでしょうか。

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まとめ

遺産分割方法により、遺された配偶者が住み慣れた家から出ていなかなくてはならない、といった事態を、配偶者居住権によって回避することができます。とはいえ、配偶者が負担すべき固定資産税や生活費などを考慮したマネープランや、施設に入居するなどはどうするか、といったライフプランを立てることも必要です。

どんな法律や制度もすべての人にとって万能ではないため、自分たち家族は、法律や制度をどのように取り入れていくのか、「配偶者居住権」が施行されるのを機に、家族で話し合いの時間を作ってみるのも良いのではないでしょうか。

田中友加

「自分らしい生き方」を応援!お金のパーソナルトレーナー 自動車販売業に従事した後、税理士法人にて経営コンサルティング業へ。その後、IT関連会社を設立、取締役...

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