高校の金融教育、どんな内容がいい?アメリカのZ世代の実情と日本での懸念点

高校の金融教育、どんな内容がいい?アメリカのZ世代の実情と日本での懸念点
マネーケア

金融教育の先進国、アメリカの金融教育の内容は?

上記のように、日本では最近になって、やっと子どもへの金融教育が推進されてきましたが、アメリカでは、学校でも家庭でも幼少の頃から金融教育が盛んです。
金融教育の先進国であるアメリカの金融教育についてもみてみましょう。

アメリカでは、幼稚園から高校まで、レベルに合わせて金融教育が行われています。
全米経済教育協議会(NCEE)などの非営利団体が積極的に金融教育に関わり、経済学を教える講師の育成プログラムを受講した専門家などが講師となり、金融や経済に関するさまざまな学びのプログラムを提供しています。

主な金融教育の内容は、パーソナルファイナンス(個人のお金の計画や管理)。
子どもたちは、高校を卒業するまでに、収入や支出、貯蓄と投資の必要性、家計管理やクレジットの知識などについて段階的に学びます。
段階的に学ぶことで、生活していく上でのお金の知識が無理なく身につけられるようになっています。

実際、アメリカでは、家計の金融資産が順調に増えており、これは、幼少の頃から金融教育を受けていることが大きな要因ではないかと考えられます。

日本銀行「資金循環の日米欧比較」の資料により日米の家計の金融資産構成を見てみると、2019年末の日本の家計の金融資産のうち、現預金は約53%を占めています。
一方、米国では、株式・投資信託・債券といった金融資産の割合が約53%あります。日本と米国では、現預金と金融資産の割合が反対になっているのです。

その結果、直近20年の金融資産の推移を見ると、日本の金融資産は、20年間で1.4倍になったのに対し、米国の金融資産は同期間で2.9倍にもなっています。

日本では、投資は怖いもの、リスクが大きいなど、ネガティブなイメージを持っている人が多くいますが、アメリカでは、幼少の頃から金融について教育を受けてきているので、資産運用にも前向きな姿勢がみてとれます。

日米の家計の金融資産の構成

日米の家計の金融資産の構成
日本銀行「資金循環の日米欧比較」より筆者作成

直近20年の日米の金融資産の推移

直近20年の日米の金融資産の推移
金融庁「つみたてNISA 100万口座突破!」より筆者作成

アメリカのZ世代は、良くない投資習慣を身につけてしまっているという調査結果も

とはいえ、全てのアメリカの若者に正しい内容の金融教育が浸透しているかというと、そうではない側面もあるようです。

バークレイズ証券の調査によると、1990年代後半から2000年代前半に生まれた、いわゆるアメリカのZ世代の投資家の21%が市場を上手に利用するために投資をしており、16%が手っ取り早く裕福になるために「市場に参加する」計画を立てているとのこと。さらに、Z世代の投資家の多くが5年以内に投資をやめる予定のようです。

つまり、アメリカのZ世代は、リスクをとって短期間に大きな利益を手にする投機的な投資行動を好む傾向にあり、ライフプランに沿って、長期的な視点でじっくりと資産を形成していくという真っ当な投資行動からはかけ離れてしまっているようです。

特にこの1年でこの傾向が強くなってきており、バークレイズ証券は、「2020年は若い投資家が従来は好ましくないと考えられてきた投資習慣を身につけた」と指摘しています。

日本の高校の金融教育の懸念点

日本で本格的な金融教育が始まること自体は、とても喜ばしいことではありますが、正しく金融に関する知識を伝えていかないと、先のアメリカのZ世代の例のように、投資を単なるお金儲けの道具として利用する、間違った投資習慣が身についてしまう可能性があります。

投資は、預貯金と違い値動きがあるものですが、値動きと上手につきあい、リスクを低くしながら資産形成をしていくためのポイントは、「長期投資・積立投資・分散投資」を実践することです。
この3つのポイントを実践することで、一般の人でも中長期的に安定的に資産を形成していくことができ、人生を豊かにしてくれます。

人生100年時代といわれる今、子どもの頃から身につけておくべき知識は、将来に向けて安定的にお金を増やしていく投資の知識です。短い期間でお金を儲ける投機的な知識ではありません。

これまで資産運用について教育を受けてこず、ましてや資産運用の経験のない先生の場合、資産運用の授業を担当するというのは、ハードルが高いことでしょう。

金融庁でも先生のフォローアップをする予定のようですが、先生自身もセミナーや書籍などで資産運用の勉強をしていくことや自らも資産形成に積極的に取り組むなどして、知識や経験のブラッシュアップをしていく必要があるでしょう。

また、これからの時代は、IT化が進み、変化が激しい時代です。さらに、100年に1度の金融危機や100年に1度の大地震、直近では、世界中で新型コロナウイルスの感染が蔓延するなど、世界中でこれまでに経験したことがないことが次々と起こる時代でもあります。

このような先行き不透明な時代には、生活に困ってしまった場合、公的機関の保障にはどんなものがあるか、どのような手続きが必要なのかなど、自らの身を守るためのセーフティーネットとしてもお金の知識を身につけておく必要があると思います。

他にもお金をだまし取られないための知識も必要になります。世の中には、金融詐欺や知らないばかりに損をすることは山のようにあります。

例えば、クレジットカードで買い物をする場合、支払い方法によって金利負担は全然違いますが、毎月手軽に支払えることから多くの人がリボ払いを選択してしまいます。リボ払いの仕組みを知っている人は、高金利のリボ払いを選択することはないでしょう。

子どもたちが、力強く未来を生きるために、基本的なお金の管理はもちろんのこと、様々な金融商品の知識や長期的な資産形成の方法、セーフティーネットの知識、詐欺やお金を無駄にだまし取られない知識まで大人になったときに困らないお金の知識が体系的に身につけることができるカリキュラムが必要になるでしょう。

日本の金融教育はまだ課題が多いといえますが、金融教育が推進されていくことは時代に合った良い流れだと思います。今後ますます若年期から金融教育が浸透していくことを期待したいと思います。

高山 一恵

(株)Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー(CFP) 2005年に女性向けFPオフィス、株式会社エフピーウーマンを創業、10年間取締役を務め...

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