お金の価値の今・昔 明治の1円は今だといくら?
お金の価値は将来にわたり、一定とは限りません。
それなのに、なぜ多くの人は、銀行口座に預金しているお金を今すぐ使わずに、将来のために貯蓄をしておくのでしょうか。それは、もしかしたら将来もお金の価値は変わらないと思っているからかもしれません。
今回は、お金の価値の変化について一緒に考えていきましょう。
明治の1円は、令和の約8,000円?!
明治時代のお金の価値を知るにはいろいろな方法がありますが、今回は夏目漱石の小説、「坊ちゃん」から考えてみましょう。
「坊ちゃん」は、明治時代の東京と四国松山が舞台となった小説です。教科書などで読んだ人も多いのではないでしょうか。
小説では、無鉄砲な性格の主人公「坊ちゃん」が、東京物理学校(現在の東京理科大学の前身)を卒業後、四国の旧制中学校に数学の教師として仕事についたものの、いろいろあって東京に帰ってくる、というストーリー。
「坊ちゃん」は両親が亡くなってから家屋敷などが売られ、兄から600円受け取りますが、そのお金で物理学校に入学します。600円あれば3年勉強できる(当時は3年制※1) 、と考えたからですが、今の東京理科大学数学科の初年度納入金は159万5,000※2円。実に7975倍、約8000倍もの違いがあるのですね。
※1:朝日新聞「東京理科大学」、※2:東京理科大学「初年度納付金(学費)」
初任給は明治で40円、令和なら21万1,854円
「坊ちゃん」は物理学校を卒業すると、四国の中学校で数学を教える教師になりますが、ここでの初任給が40円でした。
現在、松山市がある愛媛県の公立学校(小学校・中学校・高等学校・特別支援学校)での大卒初任給は、21万1,854円※3 。明治時代と比べると約5000倍の差ですが、現在の給与には基本給のほかに住宅手当や期末・勤勉手当等があるので、単純に比較するのは難しいですね。
お金の価値を比較するには、何を基準にするかがポイントになります。
「坊ちゃん」では、教員の同僚から氷水(砂糖の煮汁に氷水を入れたもの)をおごられただの、氷水代を返すだのでひと悶着ありますが、この氷水代は1銭5厘です。1銭は1円の100分の1、1厘は1銭の10分の1ですから、0.015円です。
現代なら、さしずめ自動販売機の缶コーヒー代のやりとりといったところでしょうか。1本150円だとすると、1万倍の差です。
※3:愛媛県教員採用情報「勤務条件/待遇」
経済成長により、徐々に物価が高くなる
このように、ものによって差の大きさに違いはありますが、お金の価値は時代とともに変わることは同様です。
明治時代に1円持っていれば、街で飲み物を買っておつりがきますが、令和の現代では、1円で買える飲み物はないでしょう。
では、どうしてお金の価値は変わるのでしょうか。
それは、さまざまな要因が絡み合っているのですが、経済が成長しているからと言えます。
企業はモノやサービスを売りますが、経済が活発になり購入したいと思う人が多くなれば価格が上がり、価格が上がれば企業で働く人の給料が上がります。給料が上がれば、さらに購買力が高まるのでもっといいモノやサービスを買うようになり、徐々に物価が高くなります。
物価が高くなるということは、たとえば去年500円だったハンバーガーが、今年は510円出さないと買えないということです。この場合は1年で1.02倍、2%増ですね。
しかし、先ほど見てきたように、ものによってはもっと高くなったり、値段が変わらなかったりします。また、物価の上昇率以上に収入が増えた人は消費が増えますが、収入が変わらない人は逆に減ってしまいます。
これらのばらつきをならして、指数にしたものが、「消費者物価指数」です。