第12話:「ふわっとフレンチトースト」/NO(money+love) —私らしい人生って?—

NO(money+love)

歴史を紐解くことでお金を本質を理解した桃夏。
まりんが桃夏に資産形成を教える理由が明らかに。
前回 第11話「まりん先生」

第12話「ふわっとフレンチトースト」

リビングに行くと、エプロン姿のまりんがキッチンに立っていた。

「おはよー」

「あっ!おはようございます」

「まりんって、ほんと早起きだよね。私も見習わなきゃ。てか、何作ってるの?」

まりんはボウルを少し傾けて、私に中身が見えるようにして見せてきた。

「もしかして!」

「その、もしかして!です」

一昨日の夜、女子力の高い会社の先輩が朝食にフレンチトーストを作っていたのを見て、羨ましく思った話しをまりんにしていた。

「嬉しすぎる…!」

「ちゃんと、ホイップさんも用意してあります」

まりんが冷蔵庫の中から取り出したボールの中には、ふんわりと泡立ててある生クリームが入っていた。

「さすがだなぁ」

「ふわっふわの生クリームを付けて、ふわっふわのフレンチトーストを朝から食べたい!って、桃夏さんが言っていたので」

グッドサインをすると、まりんもはニコッと微笑んだ。

「カナダのお土産で貰ったメープルシロップをかけて食べよう」

「完璧ですね!」

手を洗って、ピンクの花柄のタオルで手を拭いたまりんは、ニコニコと笑った。

「しばらく漬け込んでおくので、その間に昨日の続きでもしましょうか」

「そうだね。今日は何ティーにする?」

「んー、ストロベリーティーにしましょ」

ハーブティーにハマっている話しをしたら、職場の先輩が茶葉をお裾分けしてくれた。
その中のストロベリーティーを入れると、イチゴの甘い香りに、思わず口元が緩んだ。

「朝から香りを楽しめるって、幸せだよね」

「小さな幸せを大切にしていないと、人生に色が無くなっちゃいますからね」

まりんが言うと、言葉として重みがあった。

「やっぱり、普段は大変?」

「うーん、そうですねぇ…。けれど、失われた20年って呼ばれる期間を頑張ってきた人達のことを考えると、頑張らなきゃ!って思いますけどね」

「失われた20年って、バブルが弾けた後の20年間だよね?」

手でシャボン玉を潰すようにパンっと軽く手を叩いて、まりんは頷いた。

「そうです。悪魔のようなデフレスパイラルの尾を引きずった20年間です」

「1990年代からの、バブルが弾けて、物価下落が起きて、企業収益が悪化して、リストラが加速して、消費が低迷して、さらに物価が下落していくっていう悪循環だよね」

まりんは、深刻そうな顔をして頷いた。

「元々石油依存社会だった日本が、オイルショックを受けて、燃費の良い車を作って輸出を増やしたのが1980年代です。けれど、1985年のプラザ合意により、輸出企業が大幅減収になって円高不況へ…。ただ、この時は、原油高でも利益を生む体制に日本が変わっていたので、アメリカの思惑に反して、また輸出攻撃に転じることが出来たので、ここまでは良かったんですけどね」

「景気が回復したのに、日銀が金利を下げっぱなしにしてしまったと…」

「まぁ、1987年のブラックマンデーでの株価の大暴落があったので、金利を上げたくても、上げにくかったっていうのも、分かりますけどね」

まりんは、小さな溜息をついて、首を振った。

「けどさ、日本一国でアメリカの土地が4倍買えちゃうくらい不動産価格が高騰していたっていうのも、すごい話しだよね。なんていうんだろ。想像もできないけど、夢があるよね」

「そんなに昔の話しでもないですもんね。ただ、バブルが弾けたあとの1990年以降はGDPも民間消費が減ったせいで上がらなくなってしまったり、バブルが残した代償は大きかったですよね。2002年から2009年3月まで戦後最大の好景気と呼ばれている、いざなみ景気だったと言っても実感はなかったという人が多いのも、名目上の数字がほとんど増えていないことが原因の一つですし。物価が下がっていたせいで、目に見える価格が変わらないので好調感がなかったって言われてますよね」

「んー、けど、最近は、なんだろ。少しだけ、好景気なような気がしてるけれどね。素人の肌感覚でしかないけどさ。有効求人倍率も少しずつ上がっているみたいだし」

無意識に、私は両指の人差し指を立てて、上に向かってクイックイッと宙を指していた。
まりんは、私の真似をすると、楽しそうに笑った。

「好景気に向かって、今進んでいるところですもんねっ。経済の先読みは出来ないので、呑気なことは言っていられませんが、少しでも明るい未来を信じていたい気持ちはあります。実は私、日本のGDPを上げるのに貢献していきたいなって思っているんです」

「えっ?どういうこと?」

唐突なまりんの発言に、つい私は笑ってしまった。
まりんは恥ずかしそうな顔をして、髪をかき分けながら考えるように言葉を繋いだ。

「GDPって、どうやって計算されているか覚えてますか?」

「昔習った気はするけれど、忘れちゃった…」

ルーズリーフに、まりんは計算式を書き込むと、私の方に向かって紙を差し出した。

【GDP=民間消費+民間投資+政府支出+(輸出−輸入)】

「実はこれ、民間消費が6割。民間投資が2割を占めているんですよ。民間消費は、個人が家計を通してモノやサービスを購入するのに使った金額の合計です。なんか、身近じゃないですか?」

「そう言われると、確かに…。個人支出を増やすようにして、日本のGDPを上げることにも貢献していこうってこと?」

「そうです!」

私の方を見て話す時の目は、真っ直ぐとキラキラしていた。

「カナダとかでカフェに入るとですね、隣で自国の政治について高校生が話し合っていたりするんですよ。一般的な高校生が、自国のあり方について頭を悩ましていたりするんです。国に所属しているっていう意識が、ちゃんとあるんです。私が初めてサンフランシスコに留学した時に、日本について聞かれて、上手に答えられなくて、どうして自分の国なのに知らないんだ?って逆に驚かれた経験があって。そこで、自分が自分の国について全然知らないということを初めて恥ずかしいことだと気が付いたんです。そこから、自国について考えるようになりました。桃夏さん、イスパノフォビアっていう言葉聞いたことありますか?」

私が首を横に振ると、まりんは話しを続けた。

「イスパノフォビア、スペイン嫌悪っていう意味です。16世紀中期から17世紀前半までの80年間、現在のスペインであるイスパニア大帝国は陽の沈まない国として称えられていました。それが、現在のスペインは主要国首脳会議にもメンバーから外されています。かつて陽が沈まないと言われていた程の国が、世界のトップ8にも入れなくなってしまったんです。原因は、なんだったと思いますか?」

「周りの国から、嫌われちゃったっていうこと?」

「ちょっと、惜しいです。イギリスやオランダがスペインを悪く言った結果、スペイン人が自国を悪く言うようになったのが、イスパニア大帝国が衰弱して没落して言った原因だって言われているんです」

「他人事じゃ、なさそうだね…」

思わず呟いた一言に、まりんも深刻そうな顔をして頷いた。

「ジパノフォビア。日本嫌悪という言葉もあります。当時のスペインは宣伝合戦に敗北し、歴史の敗北者になりました。現在の日本でも、ナショナル・アイデンティティ・ウォーという名の戦争は続いていると言われています。自国愛と言うと、すぐに戦争と結びつける人がいますが、国あっての自分だという認識が、あまりにも近年の日本人は低い気がしてならないんです」

「そうだね。私も、まりんと今こうやって話すまではさ、恥ずかしいことに全然自分の国のことを考えたことってなくて。けれど、今、すごく大切なことなんだなって気付いた」

話しに夢中になっている間に、少し冷めたストロベリティーを飲んだ。

「国あっての、国民ですからね。国が崩壊したら、私達の生活も崩壊します。今の日本人って、恵まれ過ぎて恵まれていることにすら気が付いていない人が多いような気がします。ただ、日本人が平和ボケをしている間に、他国はドンドン成長していきます。日本という国を守るためにも、国民一人一人が国のために出来ることを考えて、実行していくべきだなって思うんです」

「そっかぁ。それで、民間消費を上げて、GDPに貢献していきたいんだね」

「だって、日本人全員が100円支出を増やしただけで、約100億円以上動くんですよ?なんか、貢献出来そうな気がしません?」

さっきまでとは反して、まりんは明るい笑顔を見せた。

「そう言われると、確かに」

「まずは、一人一人の意識改革が必要だなって、思っていて。で、色々と考えた結果、民間消費を増やすためには、資産運用法が日本人に定着していくのが一番だなって思ったんです」

「貯金癖がある日本人も、資産運用してお金を増やす術を覚えれば、財布の紐が緩くなるとか、そういうイメージ?」

私の言葉に、まりんは満足げに大きく頷くと、ニコッと笑った。

「だから、まりんは私に資産運用を教えてくれたんだね」

「一人の意識を変えられなかったら、多くを動かすなんて無理ですからね。なんか、今朝は少し重い話しになっちゃったので、フレンチトースト焼いちゃいましょうか!」

「賛成!」

嬉しさのあまり勢いよく立ち上がった私は、テーブルの脚に親指を打ち付けた。
痛さに堪える私をまりんは、笑いを堪えながら見ていた。

第13話:「過去から新しい毎日へ」

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

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