第10話:「一週間記念」/NO(money+love) —私らしい人生って?—
毎日新しい気づきがあり、桃夏の心に大きな変化が現れはじめる。
前回 NOマネ第9話「会社帰りのデート」
第10話「一週間記念」
朝活を始めて、一週間。
目覚ましが鳴る前に、目が覚める程度に朝活に慣れた。
起き上がり、数分間だけストレッチをする。
寝ている間に固まった筋を伸ばし、カレンダーに朝活をした印であるピンクの蛍光ペンで小さく丸を付ける。
ピンクの丸が、今日で丁度7つ。
部屋から出て、リビングに灯る明かりを見て、今朝もまりんは私より早く目覚めていることを確認しつつ、洗顔と歯磨きをする。
以前は、ピンクと青の二色の歯ブラシが並んでいたところに、今は薄ピンクと濃いピンクの歯ブラシが2本。
薄ピンクは、私の歯ブラシ。
濃いピンクは、まりんの歯ブラシだ。
歯磨きを咥えた状態で振り返ると、まりんが立っていた。
「いつの間に、新聞読みながら二度寝しちゃってました」
少し眠そうに目をこすっている。
私がピースサインをすると、まりんも濃いピンクの歯ブラシをとって歯磨きをした。
「桃夏さん、今日は記念すべき日なんですよ。わかりますか?」
同じタイミングでリビングに戻ったまりんは、キラキラした目で私を見た。
「朝活を始めて、一週間目!」
私の一言に、まりんは嬉しそうに頷いた。
「大正解ですっ」
私たちは、このささやかな記念日を祝うように小さく拍手をした。
「では!この一週間で、桃夏さんが実践したことを教えて下さい」
パソコンを開いて、シャキっとした表情をしたまりんを見て、私は自分がまりんに言われて取り入れたことを思い出し始めた。
「えっと…、家計簿をアプリでつけるようになった!」
なぜか今までは、家計簿は手書きでつけることに
けれども、アプリに変えてみたら思いの他便利で、今ではすっかり定着している。
「いいですね!他には、ありますか?」
「家計の固定費について考えるようになったこと」
うんうん、と二回まりんは頷いた。
私は、いつも通りにまりんが用意してくれたティーカップのお茶に手を伸ばした。
カモミールティーの香りが鼻を
「そういえば、今日の仕事帰りに携帯ショップに寄る予定なの」
「お!格安SIMですか?」
「そう。今、通信費1万5千円とかだから、少しでも安くしたいなって思って」
「また一歩前進ですね」
まりんが笑顔で右手をあげたので、私達はハイタッチをした。
「電気代も、電力の自由化をもっと活用しようと思って資料請求したしね」
「水道も、節水シャワーヘッドの効果が出るんじゃないですか?」
「ね!長期的に見たら変わりそう」
この一週間で、いろんなことが変わったことに改めて気が付いた。
毎日色んな刺激があった分長く感じていたものの、よく考えてみるとたったの一週間だ。
「まりんって、すごい…」
心の声が、思わず漏れた。
「急にどうしたんですか?」
少し驚いたような表情をして、まりんは笑った。
「いや、なんか本当に人生が変わってきているのを実感しちゃって。心の底から、すごいなって思ったの。私って、何年も変わってこなかったから。変わろうとは何度も思ってきて、自己啓発本とかは買って読んだりもしてきたんだけど、読んだら満足しちゃうというか…。なんだろ、他力本願なだけで自分の人生を変えていく素振りは出来ても、行動ベースでは落とし込めていなかったのかな」
テレビの横に置いてある本棚のところまで歩いて行ったまりんは、並べられている本を見てウンウンと二回頷いた。
「本を買うっていう行為も、
「自己啓発本ってさ、意外と簡単に出来そうなことが書いてあるじゃない?小さなことから変えていくことが大切だっていうことは分かるんだけど、なぜか後回しにして、結局は楽を求めちゃうんだろうね」
「ただ、くすぶった気持ちだけが残って、また新しい本を買うという…」
「そう!それ!」
私も、立ち上がって本棚の前にきた。
数年前に買った自己啓発本と、海斗と別れる前に購入した自己啓発本。
自己啓発本だけで5冊。
タイトルは違えど、内容は似たり寄ったりだった。
ただ、救いの手を求めて、
「なんで、本をいくら読んでも変われなかった桃夏さんが、変わっていけたのか分かります?」
私は、右手の五本指をまりんに寄せるようにして指さした。
「まりんと出会ったから」
「ブッブー」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、まりんは胸の前でバツを作った。
「えー!それしか思いつかない!」
まりんは、可笑しそうに笑った。
「桃夏さんが、桃夏さんをちゃんと認めたからですよ」
「ん?どういうこと?」
「今までの桃夏さんは、自分一人じゃ生きていけないって、どこかで思い込んでいた節があったと思うんです。だから、他人の力を利用して、変わろうって思っていたんじゃないですか?自分一人の力じゃ生きてはいけないから、自分を変えてくれる誰かがいるって。おとぎ話のお姫様を都合よく解釈して、王子様が迎えにきてくれるって深層心理で思い込んでいる女性って世の中結構多いんです」
「確かに、そうかも…」
まりんは、本棚にあったシンデレラの絵本を取り出して、ページを広げた。
「おとぎ話のお姫様って、男性に頼って生きていこうとか、親のスネを
「そうだね。みんな女性として自立していて、自分じゃない誰かの為にも頑張れるような人っていうイメージ」
「今の桃夏さんは、お姫様に近づいてますねっ」
シンデレラの美しいドレス姿の絵を前にして、私は首を傾げた。
「そうかな?」
「変わってきたと感じているのが、論より証拠です」
嬉しそうな顔をして、まりんは微笑んだ。
シンデレラも、優しく微笑んでいるように見えた。