【Z世代のマネー学】人間は損したくないのに損する行動を取ってしまう?1から学ぶ「行動ファイナンス」
誰しも、投資や買い物の際に損したくないと思っているはずです。
しかし、損したくないと思いながら、知らず知らずのうちに損する行動を取っていることがあります。
今回は、こうした損する行動を研究する「行動ファイナンス」を1から学ぶと題して、ご紹介します。
「いやいや、自分はそんな行動をしていない」という方にこそ、ぜひ読んでいたければと思います。
▶︎前回:投資する上で大切な3つのリターン視点
行動ファイナンス(行動経済学)とは?
行動ファイナンスとは、一言でいうと、これまでの経済学に心理学を結びつけた研究です。
従来の経済学では、「人は必ず合理的に行動する」と考えられています。何か買うものを決めるとき、複数の選択肢のなかから、一番いいもの、利益の高いものを瞬時に、冷静に選びとるという前提で話を進めます。
たとえば、宝くじを買うのは経済学的には損。宝くじの還元率は45%ほどだからです。誰もが従来の経済学で考えていれば、宝くじを買う人はいなくなります。
しかし、実際にはそんなことはありません。一攫千金を夢見て、宝くじを買う人は必ずいます。過去に当たりの出た売り場で買ってみたり、神頼みしたりする方もいます。そうして、たいていの場合は大外れして損しているにもかかわらず、次の宝くじをまた購入するのです。
従来の経済学では明らかに損ですが、おそらく、「また買ってしまう」という気持ちがわかる方が多いのではないでしょうか。
人間は、常に合理的に行動するわけではなく、しばしば判断を間違える。その前提に立って経済を考える学問が、行動ファイナンスなのです。
合理的な判断を誤らせる「ヒューリスティック」
行動ファイナンスでは、合理的な判断を誤らせるものの研究がなされています。そのひとつが「ヒューリスティック」です。
ヒューリスティックとは、人が何かを判断するときに、物事を直感で考えることです。
たとえば、行列のできるスイーツ店でケーキが売っていたら「おいしいに違いない」と思いますよね。そして、あまり悩まずに購入する方もいるでしょう。いちいち、「このケーキは自分の口に合うだろうか…」などと何十分もその場で悩む方は少ないと思います。しかし、実際にこのケーキが口に合うかは確かにわかりません。もしかしたら、ハズレかもしれません。
ヒューリスティックには、物事の判断をすばやくできる利点があります。しかし、よく考えずに手抜きして判断した結果、間違えてしまう可能性もあるのです。行動ファイナンスでは、どちらかといえば後者、合理的な判断を誤らせるものとして扱われます。
主なヒューリスティックには、次のものがあります。
代表性ヒューリスティック
代表性ヒューリスティックとは、代表的・典型的な例だけを見て物事を判断してしまうことです。統計や確率などを無視して、思い込んでしまうことを指します。
標本(サンプル)の大きさの無視
標本数が少ない時に、標本数が多い時の確率で判断してしまう傾向を「標本の大きさの無視」といいます。
たとえば、「90%の人が効果を実感!」とうたう薬があったとします。いかにも効きそうですが、この90%が「10人中の9人」だった場合は、標本の数が少なすぎるでしょう。
実際、100人、1000人と試しても90%の人が効果を実感するかはわかりません。標本が少ないときは、理論的な確率とかけ離れた数字がでてくる可能性があるのです。
投資でも、「このチャートのときは値上がりする」などと、攻略法を語る場合がありますが、過去数回たまたまそれでうまくいったからといって、今後も必ずそうなるとは限りません。数を増やしていけば、攻略法ではなくなってしまうでしょう。安易に鵜呑みにするのは危険というわけです。
ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)
たとえば、コインを投げて表裏を当てるゲームをした際、裏が続けて3回出たとしたら、次は何となく表が出そうな気がしてしまいます。
しかし、表が出る確率も裏が出る確率も同じ50%ですから、次もその次も当然裏が出ることがあります。
相場が予想以上に上昇すると「そろそろ値下がりするのでは」「暴落が来るに違いない」などと思ってしまいがちです。
しかし、過去と未来の相場は独立しています。もちろん、暴落する可能性もありますが、それよりも起こりやすいのは平均的なところに落ち着くことです。
これを「平均回帰の効果」といいます。
平均回帰の思い違い
プロ野球をはじめ、スポーツ界には「2年目のジンクス」と呼ばれる現象があります。新人王を獲得するような好成績を残した選手が、なぜか2年目には成績を落とすことをいいます。
もちろん、「研究されたから」「体の調子を崩したから」など、個々の要因もあるのですが、代表性ヒューリスティックの観点で考えると、単に「平均回帰の効果」で平均に近づいているとも考えることができます。
投資信託でも、1〜3年程度の短期間ですばらしいパフォーマンスをあげているものがあります。しかし、10年・20年とデータが蓄積されていくと、平凡なパフォーマンスに落ち着いてしまうことがあります。
そんなときに「最初はよかったのに残念」と思われるかもしれませんが、実際は平均回帰の思い違いかもしれません。
アンカリング効果
アンカリング効果は、先に与えられた数字にその後の判断が引っ張られてしまうことをいいます。アンカリングの「アンカー」とは、船の錨(いかり)のこと。船が錨をおろすと、そこから動けなくなってしまうことからこう呼ばれます。
たとえば、トルコの人口は6000万人より多いでしょうか。それとも少ないでしょうか。
みなさんご存知ないと思います。では、トルコの人口は何人だと思いますか?
こう質問すると、何となく「5500万人かな」「いや、6500万人では」などと、6000万人を手がかりにして、近しい数字を答える方が多いでしょう。
でも、実際のトルコの人口は8200万人いるそうです。「6000万人」は、トルコの人口のヒントでも何でもなかったのですが、それに引っ張られてしまうことがある、というわけです。
見えない数字の過小評価
私たちは、目に見える数字や現実の支出がどうかを気にする一方、計算しなければわからない費用、小さな数字、隠れた数字を気にしない傾向にあります。
投資でも、手数料や税金がかかることを気にしない方がいます。また、長期間投資することで得られる複利効果も軽視されがちです。
しかし、だからこそ高い手数料の投資信託が買われたり、つみたてNISAやiDeCoを利用しなかったり、買った商品をすぐに売ったりしてしまうのです。
自信過剰
ヒューリスティックによる誤った認識が信念にまで高まることを自信過剰といいます。
サイコロ投げのようなギャンブルで「投げ方を工夫できるに違いない」「ツイてるあの人と同じ目に賭けよう」などと思い込んでいる人がいます。実際にはそんなことはなく、偶然そうなっているだけなのですが、客観的な確率よりも自分の成功の確率が高いと思い込む「支配の錯覚」はその代表例。もちろん、実際に「自分の成功の確率が高い」わけではないので、このような賭けは失敗に終わることになります。
横並び行動(ハーディング)
自分がそこまでいいと思っていなくても、周りの人がいいというだけで物を買ったことはありませんか。これは立派な横並び行動です。実際に「買ってよかった」となることもあるかもしれませんが、そうならないことも多いでしょう。
投資でも、「仮想通貨の時代だ」「これからは米国株」などともてはやされると、そこに人の興味とお金が集まります。それによくわからずに乗ってしまうと、暴落の憂き目にあう可能性もある、というわけです。
「みんなが買うからいい」ではなく、本当にいいものなのか、きちんと判断してから買うことが大切です。