第9話:「会社帰りのデート」/NO(money+love) —私らしい人生って?—
遠ざけていたお金への意識をガラリと変えるまりんの言葉。
少しずつまりんとの距離が近づいていき…
前回 第8話「不明金の行方」
第9話「会社帰りのデート」
「ごめんっ。一本前に乗れたら良かったんだけど、逃したー!」
改札を出た所で、少し不機嫌そうな顔をして待っているのは、新しい彼氏の南山君…ではなく、まりんだった。
「時間を守れない社会人は、信用されませんよっ」
「ごめんってー」
プクーとお決まりに頬を膨らませたまりんは、私と目を合わせると目を細めて笑った。
「なんちゃって。私も、今さっき着いたところです」
グレーのパンツスーツを着ているまりんには、キャリアウーマンの一言がよく似合った。
ふわっと巻いてある巻き髪は、今朝お互いの髪を巻きあいっこした時のままである。
それでも、外で会うまりんは新鮮で、家で見ている時と違う人物のように見えた。
「外資コンサルって、家に帰って来ないイメージだったけど、意外とこんな時間から会えるんだね」
「まぁ、今日の任務は報告資料を提出することだけだったので」
「そっか、そっか」
今朝の会話を思い出して、何て聞こうかとまりんを見て考えた。
「クビは飛ばなかったので、安心してくださいね」
「えっ。私の心の中読んだ?」
「ほっぺたに書いてありました」
いたずらっぽく笑った、まりん。つい、ホッと胸をなでおろした。
「安心した」
「お騒がせしました」
まりんと歩いていると、通り過ぎる人がまりんをチラっと見て歩いていくことに気が付いた。
乗降者数世界一位の新宿駅で、まりんの美形が際立っていた。
「ねぇ、一人で歩いている時、ナンパとか大変じゃない?」
「Not interested!」
綺麗な発音の英語を披露したまりんは、得意気な顔をして、ふふんと笑った。
「全部聞こえないフリして歩いて、あまりにもしつこかったら、少し強めの口調で言うと一撃できます」
「おぉ、さすが」
余裕のある空気感に、一つ疑問が湧く。
「ね、そういえば、まりんって彼氏いないの?」
「一緒に過ごしていて、私から異性の存在を感じたことってありました?」
「いや、なかったけど…。まりん、モテそうじゃん。彼氏がいないのって、結構意外だなって」
まりんは、深いため息を吐いた。
「みんなそうなんです」
「へ?どういうこと?」
「彼氏がいそう、遊んでいそう、ハードルが高そう。勝手な想像をして決めつけて、自分が痛い目には遭いたくないから遊び感覚で寄って来る人が多いです。あとは、自分の身の丈が分かっていない人や自信家」
「あー、なんか分かる気もするなぁ」
私の一言に、まりんはコクンと頷いた。
「桃夏さんも美人さんじゃないですか。元々読者モデルやってましたよね?」
「わー!なんで、それを?」
顔が赤くなったのが、自分でも分かった。
「高校生の頃、赤文字系ほぼ読んでいたので、桃夏さんがモデル活動していた時に私丁度愛読者の一人でしたよ?」
いたずらっぽく笑ったまりんは、更に茶化すようにピースサインをして少しだけ舌を出して笑った。
読者モデルをやっていた時に、私がよくしていたポーズだったのもあって、顔から火が出てきそうな気持ちになる。
「もー」
「良いじゃないですか。桃夏さん、とっても綺麗でしたよ。もちろん、今も」
雑誌の読者モデルじゃなくて、アイドルとしてテレビで活躍出来そうな風貌を持つまりんに言われると、恥ずかしさもありつつ、少し嬉しくも感じた。
「着きましたよ、ここです」
まりんが、使っていたボディークリームを借りて使用したところ、香りも使い心地も理想的で、今回お店を紹介してもらう流れになった。
カリフォルニア調のインテリアが置いてある、可愛いらしい店舗。
まりんがいつも担当してもらっている店員さんを紹介してもらって、木苺の香りのボディークリームを少し奮発してカード払いで購入した。
「最近、結婚費用もクレジットカード払いが多いらしいですよ」
「えっ。そうなんですか?」
会計待ちの間、まりんが言った一言に、私より先に店員さんが反応した。
「支払いを先延ばしに出来る分、ご祝儀で返済出来るようになるし、便利みたいです」
「あー!なるほど。丁度、彼と結婚の話しが最近出てきていて、つい食いついちゃいました。参考にさせて頂きます」
嬉しそうな店員さんの笑顔を見て、まりんにグッドサインを送ると、少しくすぐったそうな顔をして、まりんは笑った。