2章第4話:「ワインと彼女」/恋する3センチヒール
現金の脆さを教えてくれた大介に玲奈は色々と質問をしていくが・・・
前回 2章第3話「コースターと算式」
2章第4話「ワインと彼女」
「へへっ」
サラッとした艶のある髪を撫でると、彼女ははにかんだ後、ワインを口に含んで少しむせた。
「あのっ、理由の一つということは、他にも理由があるんですか?」
「するどいねー」
彼女の返しに、異性としてのトキメキは感じなかったのだと諭した。
本音とは裏腹に、彼女を安心させるためだけに微笑んだ。
どうやら、彼女の興味は運用にあるらしい。
「玲奈はさ、インフレーションって言葉知ってる?」
「インフレってやつですよね?」
「そうそう」
「例えば…、今までは100円で買えていたものが、150円になっちゃうやつですよね?物価が上がって、その分、通貨価値が下がる傾向にあるっていう」
右手の人差し指をピッと立てて、彼女は笑った。
男心をくすぐってくる、魅力的な笑顔で。
「玲奈、知ってんじゃん。じゃあ、デフレーションは?」
「その反対に、物価が下がって通貨価値が上がる傾向になるのがデフレです」
「その通り!では、僕が株を始めた理由はなんでしょう?」
家庭教師のアルバイトを学生時代にやっていた時の感覚。
一瞬真顔になった彼女は、分かりやすく二カッとした笑顔を見せた。
「現金は、インフレが起こると価値が目減りしてしまう傾向があるので、インフレ時にも景気に対応する有価証券を所有しているんですね」
「そう!反対にデフレだと、現金の価値が上がって、株価は下がる傾向があるからね」
「おぉ。インフレとデフレ両方の景気に対応できるように、備えているんですね」
「そういうこと」
グラスに残っていたワインを飲み干した。
「もう一杯飲む?」
「いえ、今日はこれくらいにしておきます!」
「じゃあ…、次いつ会える?」
予想外の問いかけだったのか、彼女はキョトンとした表情をした。
「俺、FXもやっているんだ」
自分でも、なぜこの一言を付け足したのか分からない。
ただ、どんな理由でも、また彼女と乾杯を交わしたい気分だった。
この前、メッセージでお勧めの居酒屋をいくつか教えたけれども、彼女を連れていきたい店は別にあった。
「予定確認して、また連絡しても良いですか?」
彼女から発された、一言。
柄にもなく、指切りげんまんのために小指を出した。