第2話:乾杯の前に/恋する3センチヒール
恋する3センチヒール
見慣れないスーツ姿の俊明と再会した玲奈。
まだ初々しい彼に玲奈はとある言葉を発するが・・・
前回 第1話:「再会」
第2話「乾杯の前に」
「何飲む?」
玲奈さんが予約していたお店は、焦げ茶が基調の居酒屋。
天井にあるステレオから三味線の音が店内に心地よく響いている中、メニューを広げた状態で、手渡してきた玲奈さん。
メニューの文字を追う前に、改めて肩にかかる髪の毛に目がいった。
「僕は、生で良いです。玲奈さんは?」
「どうしよっかなー」
自分の方にメニューを戻して、唇の下あたりに右手を添えながら、考えるポーズをとっている。
カフェの休憩時間にも、同じポーズをして何を食べるか悩んでいた。
あの時、胸下くらいまで伸びていた髪の毛は、今は鎖骨くらいまで短くなっている。
「決めた!ハイボールにする」
「ハイボール、珍しいですね」
「糖質制限」
「細いのに!」
自分の半分くらいしかないのではないかと思う位、玲奈さんの顔は小さい。
「現状維持も大変なの」
髪の毛の長さと、ベージュのジャケットがよく似合っている事以外、玲奈さんは学生時代と変わっていなかった。
いや、けれどもそこに、大人の魅力がプラスされたような気がした。
「何?」
「いや、最近、玲奈さん変わりないかなって思って」
「最近?あ、最近、私お金の運用始めたの」
店員と目が合ったらしい玲奈さんは、手を挙げて店員を呼ぶと、注文を始めた。
「俊明くん、セロリ平気?」
「大丈夫です!」
「じゃ、セロリの浅漬け一つと、あと…」
玲奈さんが注文をしている間に、もちろん知っている単語だけども、普段の会話でなかなか耳にしない言葉を小さく呟いた。
「運用…」
呟いてみても、しっくりこない。けれど、玲奈さんに似合う言葉だなと思った。