第3話:セロリの浅漬け/恋する3センチヒール
大人になった玲奈に魅了される俊明。
そんな玲奈から思いもよらない言葉が出てきて・・・
前回 第2話:「乾杯の前に」
第3話「セロリの浅漬け」
「お金の運用って、何をやっているんですか?」
一口、ビールを飲んだ俊明くんは、真面目な顔をして聞いてきた。
「気になる?」
バイト先で、俊明くんのトレーナーをしていた時を思い出した。カフェラテとカフェオレの違いについて、聞いてきた時と同じ顔。
「もちろん、気になります」
少し、体勢が前のめりになっている。私は、クスッと笑ったあと、セロリの浅漬けを食べた。
「美味しー。やっぱり、セロリの浅漬け最高」
「もお。焦らさないで下さいよ」
不満そうな顔をして、俊明くんもセロリにお箸を伸ばす。ポリポリと噛みながら、じっと私の目を見てくる。アルコールのせいか、心臓が変な脈の打ち方をした。
「ひみつー」
「えー!」
背もたれの方に仰け反って、頭を手で抱えながら「玲奈さん、ケチだなー」と、俊明くんは呟いた。私は、笑った後、ハイボールを口に含んだ。
「俊明くん、運用について何か知ってる?」
「え?知らないから、聞いているんです」
「そっかー」
昔から何でも投げたものをキャッチしようとする俊明くんの姿勢が、可愛らしくて好きだった。私との三年間の距離を埋めようと、カフェの仕事も誰より熱心に質問してきた。俊明くんみたいな後輩を可愛がらない先輩は、いないと思う。
「じゃあ、宿題ね」
「え?宿題?」
「次回会う時までに、お金の運用について、簡単なことだけで良いから勉強してきてよ。そしたら、質問に答えてあげる」
俊明くんは、グッと腰に手を当ててビールを飲んだ。
「もう、社会人ですからね。お金の運用なんて、勉強しちゃえば僕の方が玲奈さんより詳しくなっちゃいますよ?」
「おお、その意気!次回が楽しみだなぁ」
「うっす」
右手で気合を入れるように、俊明くんはガッツポーズをした。なんだか気恥ずかしくなって、私はまたセロリの浅漬けを食べた。