2章第9話:「王子と中古不動産」/恋する3センチヒール
投資に対する大介の心を知った玲奈。
正直な言葉を発する彼女に対し大介はついに・・・
前回 2章第8話:「焼肉の煙と過去」
2章第9話:「王子と中古不動産」
「大介さんが不動産投資をやっていたなんて、なんか意外です」
しかも、築30年で利回り4.5%の物件を持っているなんて…。
大介さんは、腕を組んで首を傾げた。
「そうかなぁ?友達には、投資用不動産のオーナーもやっているっていうと、大介ぽいって言われるけど」
「だって、大介さんの場合、他の運用先がFXと株じゃないですか。利回り的に、不動産投資って魅力をあまり感じないんじゃないかなって、ふと思ったんです」
微かに、ポートフォリオの一言をどこかで私は期待していた。
大介さんは、薄焼きロースを網の上に丁寧に並べた後、ニヤッといじわるそうに笑った。
「玲奈も不動産投資について勉強しているんなら、ちょっと質問しちゃおっかなー」
「えーっ。なんですか?」
「マンション投資で見込める収益性って、何かな?」
「家賃収入ですか?あとは、買った時よりも、売る時に高く売れたら売却益も狙えますよね」
「そう!不動産だと、安定的かつ長期的に収益を見込めるからね。FXや株は、自分では予測不可能な要因で収益が左右されるけれど、不動産だとリスクも予想しやすいから、その分対策も出来るところが魅力的だなって思って」
大介さんが、お皿に薄焼きロースを乗せてくれた。
リラックスした表情をしている大介さんを見て、私は今まで自分が大きな勘違いをしていたことに気が付いた。
「もしかして…。大介さんって投資に関して、安定志向ですか?」
「ん?」
大介さんは、言葉を考えている表情をしながら、薄焼きロースをしばらく噛んで飲み込んだ。
「FXもスワップポイント狙いで置いているって、聞いたのを思い出して。不動産も安定的かつ長期的に収益がとれる点を利点に感じているっていうことは、安定志向なのかなって」
「うん、最初から安定志向だよ。なるべくリスクはとりたくないし。株だって、株主優待目的だしね。玲奈には、俺のことどう見えていたの?」
「正直な意見を言うと…」
「ギラギラしているように見えた?」
大介さんは、哀しそうな表情をした。初めて見る表情に、胸の奥を抓られたような痛みを感じた。
「いやっ。そんな」
「玲奈は、嘘をつくのが下手だなぁ。良いんだよ、慣れているから」
「慣れているって、どういうことですか?」
「自分では自分の外見がそこまで整っているとは、思えないんだけどね。昔から、見た目だけで勝手に人から期待をされたり、判断されることが多かったんだ」
大介さんは、落ち着いてゆっくりと言葉を選んで話してくれた。
私は、網の上にタン塩を並べながら、ただ頷くことしかできなかった。
イケメンだからこその悩み故に、どんな言葉を選んでも、違う気がして。
「勝手に期待して、勝手に失望して去って行く人だっていた。俺は、ただ俺として生きていたいだけなのに。人間だから失敗だってするし、なんでも完璧にこなせるワケないのにね。俺が見て欲しいのは、外見じゃなくて中身なのに、いつしかそういう感覚すら忘れて、他人が望む俺を演じるようになった。ギャンブル的に、ハイリスクハイリターンの状態で勝ち続けている俺の方が、安定志向で運用をまわしている俺より、俺ぽかったってことでしょ?」
私は、さっき大介さんが教えてくれた投資用物件を思い浮かべた。
「だから、あの物件を選んだんですね」
「へ?」
「不動産投資で重要なのは、立地条件ですもんね。なんか、今の話しを聞いて、しっくりきたんです」
驚いた表情をした後、少し照れたような顔をして大介さんは言った。
「俺、玲奈のそういうところが好きなのかも」
網の上で良い音を立てながら、タン塩が焼けていた。