3章第7話:「紗愛子さん」/恋する3センチヒール
大介との接点をもつ紗愛子に、ある感覚を覚えた玲奈。
紗愛子の過去が明らかに!!
3章第7話「紗愛子さん」
「世間って狭いですね。鳥肌立っちゃいました」
紗愛子さんはジャケットの上から、自分の腕を擦った。
恐らく、紗愛子さんが前付き合っていたという彼は大介さんだ。
直感的にそう感じた。
「ほんと、びっくりです。こんなことってあるんですね!」
大介さんが私を見つめた時、違和感があったことが何回かあった。
確かに大介さんは私を見ているのに、私の先に違う人を重ねて見ているような…、そんな感じ。
―二人はお互いに、まだお互いのことを好きなんじゃ…。
私は、改めて紗愛子さんを見た。
「私、大介さんと恋愛関係とかにはなっていないので、安心して下さいね」
「えっ」
紗愛子さんは、驚いた顔をした後、両手を前に出して振った。
「高柳さんのことは、私には関係ないので気にしなくて大丈夫ですよ。変なこと言って、すみませんでした。ただ、もしかして…、って思って聞いただけなんです。女の勘ってやつですかね」
身体が熱くなったのか、紗愛子さんは白いハンカチで額の汗を拭った。
「大介さんからは、株とかFXの話しを聞いただけなので、本当に先生と生徒って感じなんです」
「高柳さん、学生時代に家庭教師やっていましたもんね。教えるのが、上手ですよね」
「紗愛子さんの前の彼って、どの位付き合っていたんですか?」
残り少ないラッシーを飲みきると、紗愛子さんは渋い顔をした。
「玲奈さん、本当のことを話しますね」
「やっぱり、紗愛子さんの元彼って、大介さんですか?」
お冷グラスに手を伸ばし、水を口に含んだ後、紗愛子さんは頷いた。
「そうですね。去年まで三年間お付き合いさせて頂きました」
参りました、というように、紗愛子さんは深々と頭を下げてきた。
「いやいや、頭なんて下げないで下さい。なんとなく、思っただけなので。昔から、第六感というか、直観力が優れている方なんです」
「すごいですね」
紗愛子さんは、関心したように頷いた。
「私のプライベートの話しになってしまって、すみません。せっかく、立花先生からご紹介頂いたので、不動産投資の話しに戻しましょうか」
「そうですね。こちらこそ、失礼しました。けれど、なんだかスッキリしたので良かったです」
私達は、見つめ合って微笑んだ。
数時間前に出会ったはずなのに、以前からの知人のように紗愛子さんとの距離が近く感じた。
「さっき、J-REITの話しをしましたが、少額で不動産投資が出来るところも魅力的だなぁって思って始めたんです。で、J-REITをやっている内に、運用不動産の稼働状況や収支情報についても調べていたら、自分でも一つ物件が欲しくなっちゃったんですよね。しかも、私去年の春に兄を亡くしていて。最初は、保障について調べていたのですが、そこからお金の運用についても調べるようになって。辿りついたのが不動産投資だったんです」
「そうだったんですね」
紗愛子さんは、頷いた。
「資産形成としても、保障という一面においても、何か玲奈さんにとって不動産投資が良いものになれば嬉しく思います。今日は、ご挨拶を兼ねてお会いしようと思っていたので、詳しい資料などは実は持ってきていないんです。次回、不動産投資に関しては改めてご説明させて頂きますね」
今週の金曜日の夜に、紗愛子さんと改めて会う約束をして別れた。
帰り道、電車の中でなんとなく紗愛子さんの名刺を眺めた。
大介さんに何か一言メッセージを入れようか悩んで、私は打ち込んだ文章を消した。