3章第6話:「野菜カレーと奇跡」/恋する3センチヒール
紗愛子との話の中で、ある驚きの奇跡が起こる。
二人に起きた奇跡とは一体・・・。
前回 3章第5話:「1日の終わりに」
3章第6話「野菜カレーと奇跡」
「玲奈さんですか?」
オーガニック料理が注目を集め、最近雑誌などにもよく掲載されているレストラン。
お店の前に着き、連絡を入れようとしたところに紗愛子さんは現れた。
「そうです。片桐玲奈と申します」
グレーのパンツスーツに、巻いてある髪を横結びでまとめている。
「良かったぁ。立花先生からご紹介与りました、児玉紗愛子と申します。迷いませんでしたか?」
長身のモデル体型でありながら、ほわっと柔らかい雰囲気。
出来る営業マンと聞いて身構えていた分、内心ホッとした。
「大丈夫でした。このお店、私も前から気になっていたので嬉しいです」
「あら!なら良かった。私のお気に入りのお店なんです」
紗愛子さんは、安心したように微笑んだ。
「ここ、野菜カレーが美味しいんですよ」
紗愛子さんの一言で、野菜カレーとラッシーを注文した。
十穀米に、たっぷりの野菜。
「わぁ。本当に、美味しいですね!」
「私、そんなにカレー好きじゃないんですけど、ここのカレーは好きなんです」
バターチキンカレーのようなマイルドなカレーに、ブラックペッパーで味付けされた野菜がよく合う。
「立花先生から、玲奈さんが不動産投資に興味があると伺ったんですけど、不動産投資以外には何かやっていらっしゃるんですか?」
カレーを三分の一程食べたところで、紗愛子さんは聞いてきた。
「えっと、今はNISAとJ-REITです」
「J-REITやっているんですか?投資家から集めた資金で不動産を運用して、その賃料収入などを投資家に分配するやつですよね!」
J-REITという単語に反応して、紗愛子さんの目はキラキラと輝いた。
「かじっている程度なんですけれどね」
「いやいや。私なんて、J-REITって少し難しそうだなぁ、って後回しにしちゃっています。不動産業界なのに」
ラッシーを飲みながら、紗愛子さんは少し恥ずかしそうな顔をした。
「私も最初は難しそうだなぁって思ったんですけど、投資証券が証券取引所に上場しているので、株式投資とあんまり変わらないのかなって思って始めちゃいました。実際、株でいう配当金みたいにJ-REITの決算時には投資家に対して分配金が支払われますし、証券取引所の立会時間中は市場で取引されて価格も刻々と変動するので、ほぼ株と変わらないなって思います」
「あっ、なんか、株の配当金は、会社があげた税制上の所得に対して法人税がかかるのと、次の事業に向けた内部留保が差し引かれた残りを原資として支払われるのに対して、J-REITの分配金は違うっていう話しは聞いたことがあります。確か、J-REITの場合だと収益の90%超を分配するとかの一定条件を満たせば実質的に法人税もかからず、内部留保も無い分、収益がほぼそのまま分配金として支払われるんでしたっけ?」
紗愛子さんは、少し不安そうな顔をして首を傾げた。
「その通りです!紗愛子さん、REITに関して勉強していらっしゃるんですね」
安心したように、紗愛子さんは微笑んだ。
「実は、前に付き合っていた彼が投資に関して興味がある人だったんです。それで、一緒に色々教わって知識が身に付きました」
私の脳裏に、大介さんの姿が浮かんだ。
「私も学生時代にお世話になった先輩と、この間カフェでたまたま再会して。大介さんっていう方なんですけど、その方も投資に関して詳しくて。今いろいろと勉…」
「ひ、ひとつだけ、変なことを聞いても良いですか?」
強張った顔をして、紗愛子さんは私を見た。
「多分違うとは思うんですけれど、もしかして…、高柳大介さんですか?」
私は、驚いた顔をして、ただ頷くしかなかった。