基礎控除、給与所得控除…何が変わる? 令和2年分以降の年末調整の変更点をチェック
年末調整といえば、毎年会社から同じような書類の記入・提出を求められて、「もしかしたらいくらかお金が戻ってくる手続き」というイメージがあるかと思います。しかし、令和2年分以降から年末調整は所得税の改正事項が多く、見慣れない書類も登場します。
今回は年末調整の仕組みについて改めて確認するとともに、年末調整の変更点についてわかりやすく解説します。
年末調整の仕組み
会社から支給される給与や賞与、退職金は、源泉徴収制度が適用されるので、それらにかかる源泉所得税があらかじめ給与などから天引きされます。その天引きされた源泉所得税は、本人に代わり会社が一定期間ごとに国に納めています。
源泉徴収制度では、年間の所得が確定していない時点で所得税が計算、天引きされます。その源泉所得税の額は、「給与所得の源泉徴収税額表」を基に、社会保険料を差し引いた給与金額と扶養親族の人数に応じて、仮の所得税額が計算されています。
しかし、本来納めないといけない所得税は、毎月ではなく1月1日から12月31日の1年間の所得の額を基に計算されるので、毎月天引きされた源泉所得税の合計額と、実際に収めるべき所得税の額は基本的には一致しません。
そのため、年末にその年の所得の額が確定したら、所得税の額を算出し、それまでに徴収された源泉所得税との過不足を調整する必要があるのです。この調整のことを「年末調整」といいます。この年末調整作業は、基本的に会社がすべて代わりに行ってくれます。
年末調整によって確定申告をする必要がなくなりますが、12月31日に会社勤めをしていても、今年転職した人で前職の源泉徴収票を提出していない人など、年末調整の対象とはならない人もいます。その場合は自分で確定申告をして過不足の調整をする必要が出てきますので注意しましょう。
年末調整のときに出す書類
年末調整の際、会社に次の3つの書類を提出する必要があります。
(1)給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
(2)給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
(3)給与所得者の保険料控除申告書
令和2年分から、新しく(2)「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」が加わりました。次の章でそれぞれの申告書の役割について詳しく説明します。
(1)給与所得者の扶養控除等の(異動)申告書(扶養控除等申告書)
扶養控除等申告書は毎年末に翌年分の書類を記入するもので、翌年1月からの給料から天引きされる源泉所得税の額を算出するために使用されます。
次の控除を受けるための申告をする書類です。
・扶養控除
・障害者控除
・ひとり親控除
・寡婦控除
・勤労学生控除
配偶者や扶養親族の合計所得金額要件等の見直し
令和2年の税制改正で、同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者及び勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられ、次の表のとおり改正されました。
図:国税庁「令和2年分 年末調整のしかた」より筆者作成
この見直しは、基礎控除や給与所得控除の改正とセットで行われていて、配偶者控除などに影響がでないように配偶者や扶養親族の合計所得金額の要件の改正が行われました。そのため、給与所得しかない人にとっては実質的な影響はありません。
ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正
令和2年度税制改正により「ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除」が追加されました。いままでは「寡婦、特別の寡夫、寡夫」の3つの分類でしたが、「寡婦、ひとり親」の2分類にまとめられました。
また、いままでの寡婦(寡夫)控除は、離婚や死別によって配偶者がいなくなった人に適用されていましたが、今回の改正により、婚姻歴・性別によらず、ひとり親控除の要件を満たすひとり親である場合、ひとり親控除として、その年分の総所得金額、退職所得金額(又は山林所得金額)から35万円の控除が受けられるようになりました。
【ひとり親控除の適用要件】
・生計を一にする子を有すること(総所得金額等が48万円以下)
・所得が500万円(給与収入6,777,778円)以下であること
・住民票の続柄に「未届の夫」「未届の妻」など事実婚の記載がないこと
「寡婦控除」は、配偶者と離別・死別して子以外の扶養親族がいる単身女性、もしくは、配偶者と死別して、扶養親族がいない単身女性に適用されます。寡婦控除にも今回の改正により下記の条件が設けられました。
・所得が500万円(給与収入6,777,778円)以下であること
・住民票の続柄に「未届の夫」「未届の妻」など事実婚の記載がないこと
改正前後の控除に係る適用判定のフロー図
図:国税庁「令和2年分 年末調整のしかた」より筆者作成
このように、扶養控除等申告書は毎年年末に翌年分の書類を記入するものですが、ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正は令和2年の年末調整から適用となります。つまり、前年末に提出した扶養控除申告書をそのままにしてしまっては、控除の適用が受けられません。
上のフロー図で、〔改正後〕の「年末調整時の申告」欄が「必要」となっている人は、令和2年の最後に給与の支払を受ける日の前日までに、異動内容について申告をしなければならないので、扶養控除等(異動)申告書を会社に提出する必要があります。
(2)給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
令和2年から新しく登場した書類ですが、年末調整で次の控除を受けるための申告をする書類です。
・基礎控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・所得金額調整控除
基礎控除に関する改正
基礎控除について、令和元年以前は、所得の額に関係なく38万円の控除が適用されていました。しかし、令和2年分の所得税からは、合計所得金額が2,400万円以下の人は基礎控除額が48万円となり、2,400万円を超える人から基礎控除額が段階的に引き下げられます。2,500万円を超える人については、基礎控除の適用を受けることができなくなりました。
図:国税庁HPより筆者作成
配偶者控除および配偶者特別控除
配偶者控除または配偶者特別控除は、本人の合計所得金額が1,000万円以下、かつ配偶者の合計所得金額が133万円以下の場合に適用されます。
配偶者控除の額は、下表のとおり、控除を受ける納税者本人の合計所得金額および控除対象配偶者の年齢によって異なります。
図:国税庁HPより筆者作成
配偶者に48万円を超える所得があるため、配偶者控除の適用が受けられないときでも、配偶者特別控除が適用され、下表の通り、配偶者の合計所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられる場合があります。
配偶者特別控除(令和2年分以降)
図:国税庁HPより筆者作成
所得 金額調整控除の創設
所得金額調整控除は、令和2年分の所得税から新設された制度です。年収850万円超の方で、23歳未満の扶養親族がいる場合や、本人や家族が特別障害者であったりする場合に、一定額の控除が適用されます。
控除額は、{ 給与等の収入金額(年収)― 850万円 }× 10%で算出します。ただし、年収が1,000万円を超える場合は、「給与等の収入金額(年収)」は一律1,000万円で計算します。