年金受給マニュアル 損しないために知っておきたい基礎知識
在職老齢年金のしくみを知って働き方を考える
在職老齢年金は、70歳未満で老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金に加入して働いたり、70歳以上で厚生年金のある会社で働いている場合に、給与額に応じて厚生年金の一部または全部が停止されるしくみです。
65歳未満の場合と、65歳以上とでは計算の仕方が異なります。
65歳未満の場合
65歳未満の特別支給の老齢厚生年金を受け取っている人は、次の式によって計算されます。
①加給年金を除いた特別支給の老齢厚生年金額÷12
②その月の標準報酬月額
③その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12
①を基本月額、②+③を総報酬月額相当額といいます。
日本年金機構「老齢年金ガイド2019年度版」より
具体的な数字を入れて考えてみましょう。
【条件】
特別支給の老齢厚生年金が年間120万円
標準報酬月額30万円
直近1年間の標準賞与額合計が90万円
【計算】
①120万円÷12=10万円・・・基本月額
②30万円・・・標準報酬月額
③90万円÷12=7万5,000円・・・標準賞与額
基本月額=10万円
総報酬月額相当額=30万円+7万5000円=37.5万円
フローチャートにあてはめると、計算式①となり、
基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2
=10万円-(37.5万円+10万円-28万円)÷2=2500円
2,500円がその月の特別支給の老齢厚生年金額となります。
65歳以上の場合
65歳以上で老齢厚生年金を受け取っている人の在職老齢年金は、次の計算式によって停止となります。
①加給年金や経過的加算を除いた老齢厚生年金額÷12
②その月の標準報酬月額
③その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12
①を基本月額、②+③を総報酬月額相当額といいます。
日本年金機構「老齢年金ガイド2019年度版」より
先ほどと同じ条件で65歳以上だとして考えるなら、フローチャートにあてはめると「一部または全額支給停止」となり、
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2
=10万円-(10万円+37.5万円―47万円)÷2=9万7,500円
9万7,500円がその月の厚生年金額となります。
この計算が毎月毎月行われて、計算結果によって年金の一部や全部が停止となるのです。
在職老齢年金の計算には老齢基礎年金額は計算には入れず、いくら報酬があったとしても全額支給されます。また70歳未満で厚生年金に加入していない人も、このしくみとは関係ありません。
つまり、再雇用や嘱託などで短い時間しか働いていないことによって厚生年金に加入していない人や、起業して個人事業をしている人は、たとえ多くの収入があったとしても、年金が停止になることはないのです。
もしも、家族手当ともいえる加給年金の加算がある人なら、加給年金には在職老齢年金による減額がないので、ほんの少しでも厚生年金の支給があれば加給年金は全額(年間約39万円(ひと月約3万円あまり))が加算されます。しかし、在職老齢年金の計算により、厚生年金が全額停止となった場合は加給年金も全額停止となってしまいます。
加給年金の加算がある人は、総報酬月額相当額がいくらまでなら全額停止にならないかを知っておくことが大切になります。
企業年金があったら請求手続きを忘れないで
在職している(していた)会社に企業年金の制度があれば、そこからも年金または一時金を受け取ることができます。忘れないように請求手続きをしましょう。
企業年金には、次のようなものがあります。
・確定拠出年金(企業型)
・確定給付企業年金(規約型・基金型)
・厚生年金基金(代行部分を含む)
・退職等年金給付(公務員等)
その他、税制適格退職年金、中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度、自社年金 などもあるので、過去にこれらに加入していた記憶があれば、加入員証などが手元にないかを確認しておきましょう。
年金制度の体系図
厚生労働省ホームページ公的年金制度の仕組みより
厚生年金基金への加入履歴がある人では、加入していた基金が代行部分を国へ返上している場合があります。そのときは、代行部分の年金は支給されず、厚生年金額に含まれているということになります。
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まとめ
損しない年金の基礎知識と、年金は家族として受け取り方を考えることが重要なこと、請求しないと受け取れないことをご理解頂けたでしょうか。また在職老齢年金では、特に加給年金がある人は、計算式を理解しておかなければ損をすることがあります。
年齢や厚生年金期間、働いている状況や収入によって、それぞれ損しない受け取り方が変わります。この記事を読んで、公的年金制度にぜひ興味を持ってもらいたいと思います。