年金の受け取り方で損をする?! 年金受給はトータルで考えて
老齢年金は、60~70歳までの間の好きな時から受け取り始めることができますが、受け取り始める時期によって年金額が変わります。
今回はその仕組みと、年金額によって国民健康保険料などが変わってくる理由を解説します。
繰上げ、繰下げの実例
本来、老齢基礎年金と老齢厚生年金の受け取り開始は65歳からですが、60~70歳までの間ならいつでも好きな時期に受け取り始めることができます。
65歳になる前に受け取り始めることを「繰上げ」といい、66歳以降から受け取り始めることを「繰下げ」といいます。
繰上げをすると1カ月当たり0.5%が本来の年金額より減額され、繰下げすると1カ月0.7%増額されます。
つまり、60歳で受け取り始めると70%の年金額、70歳からなら142%の年金額になり、金額は一生変わりません。
例えば、本来の年金額が150万円だとします。
3年繰上げて62歳から受け取り始めると、年金額は123万円に減ります。
0.5%×36カ月=18.0%
150万円×(1-18.0%)=123万円
3年繰下げて68歳から受け取り始めると、年金額は187万8000円に増えます。
0.7%×36カ月=25.2%
150万円×(1+25.2%)=187万8000円
受け取る年金額が増えるので、繰下げたほうがトクなように思えます。
しかし本当にトクなのか、実はそれほど単純なことではないのです。
老齢年金と所得金額の関係
老齢年金は「雑所得」という種類の所得となり、1年間の年金総額から一定の「公的年金等控除」を引いた残りの金額が所得額となります。
所得には税金がかかり、所得税・住民税を払うことになります。
公的年金等の総額-公的年金等控除額=雑所得額
公的年金等控除額※1は、年齢と1年間の年金総額によって金額が決まります。
2020年は、65歳未満で年金総額130万円未満なら60万円。
65歳以上で年金総額330万円未満なら、110万円が公的年金等控除額となります。
先ほどの例で考えると、
62歳に繰上げて年金総額が123万円なら、雑所得は63万円です。
123万円-60万円=63万円
この人が、65歳以上になったら控除額が変わるので、雑所得は13万円です。
123万円-110万円=13万円
68歳に繰下げて年金総額が187万8000円なら、雑所得は77万8000円です。
187万8000円-110万円=77万8000円
つまり、62歳に繰上げた人は、65歳までは所得額は63万円ですが、65歳以降は所得が13万円になります。
一方、68歳に繰下げた人は、所得額77万8000円となります。
当然のことながら、所得が高いほうが税金なども高くなります。
※1:国税庁HP「公的年金等の課税関係」
住民税非課税世帯になった場合のメリット
ではここで、「住民税非課税世帯」のことを考えてみましょう。これは一定の基準の所得であることで、世帯全員の住民税がかからない世帯をいいます。
2020年の東京23区内での住民税非課税となる世帯※2は、
一人世帯なら35万円以下
二人以上の世帯なら、35万円×(本人・同一生計配偶者・扶養親族の合計)+21万円の金額以下
なので、本人と配偶者の二人世帯なら、91万円以下です。
(金額は住所地によって異なるのでご注意ください)
先ほどの例で言うと、一人世帯で、62歳に繰上げた人は65歳までは所得63万円ですが、65歳以降は所得13万円なので非課税世帯になります。
二人世帯では、68歳に繰下げて所得77万8000円だけなら非課税世帯ですが、配偶者の分も含めると91万円を超えてしまうかもしれません。
その場合は、夫婦どちらかの年金を繰上げて合計額を少なくすることもできます。
住民税非課税世帯は、以下のようなメリットを受けることができます。
- 国民健康保険料の減免
- 介護保険料の負担段階が下がる
- 高額療養費の負担上限額が下がる
- 年金生活者支援給付金の受給
- その他自治体によって特有のメリットがある
繰上げによって年金総額が減っても、保険料などの支出が減るので、結果的に手取りの収入が増える可能性もあります。
※2:東京都主税局「個人住民税-個人住民税の非課税」