MMT(現代貨幣理論)とはいったい何? 日本を救う経済理論なのか

マネーケア

お金や資産を増やしたいとは思うものの、難しい経済用語には目を背けてしまいがちです。しかしマネーには国境がなく、あっという間に影響が伝播してしまいます。世界の経済の大きな流れを知っていれば、資産を増やすだけではなく、資産を守ることにもつながります。
今回は、話題を集めているMMT(現代貨幣理論)という考え方を日本の財政事情に絡めて説明していきます。

MMT(現代貨幣理論)とは?

MMT(現代通貨理論)とは、簡単に言えば「自国の通貨を発行できる政府は、過度のインフレにならない限り、国債をいくらでも発行してよい」「財政赤字は問題ではない」という考え方の経済理論です。
MMTでは、単に政府が財政赤字を減らそうとするだけでは景気は悪化して、思ったようには財政赤字は減らないおそれがあると強調しています。

世界的な景気後退や新型コロナ感染症の影響で、世界各国が景気を下支えするために、さまざまな景気刺激策を打ち出す必要があります。新たな政策を行うには、何といっても財源が必要になります。

財源確保のために、お金を刷ったり、国債を発行したりして必要なお金が簡単に調達できることで、国民の生活が豊かになり、経済の安定が図れるのであれば、何の問題もありません。

アメリカの下院議員で民主党のアレクサンドリア・オカシオコステル氏が支持を表明し、MMTの知名度が上がりました。アメリカでは、グリーンニューディール政策(地球温暖化対策)や国民皆医療保険(オバマケア)を行っていくためには、歳出の拡大が必要だということで、MMTが注目されるようになった背景があります。しかし、MMTには標準的な理論体系があるわけではなく、共感できない部分が多いという研究者の声もあります。

MMTを実行すると、どんなメリット・デメリットが考えられるか

MMTを行った場合のメリットはどんなことが考えられるでしょうか。

たとえば国債などの国の借金を増やすことで財源が増えれば、年金や社会保障などを手厚くすることができるでしょう。また失業者が多ければ、公共事業を行うことでインフラが整備されて雇用の確保ができ、経済が上向くことになるでしょう。短期間での一時的なMMTの実行なら、それなりの経済効果がもたらされることが予想されます。

しかし、MMTには「過度のインフレにならない限り」という但し書きがあります。短期的なMMTならインフレになる可能性は低いのですが、財政赤字をどんどん増やし、継続的続けていくとなると、政策をすぐにやめることができなくなります。継続的に財政を支援するためにMMTを行う場合にはインフレになる可能性が高く、制限なく許容すれば軍事費の増加により、戦争を起こす引き金になる危険性もあります。

さらには、財源が足りないなら国債を発行すればよいので、ムダを省くことが希薄になり、無駄な歳出が行われる可能性もあります。手元からお金が出ていく代わりに財政赤字の歳出なら賛成が得られるような決定がされれば、国民の負担が意識されません。

MMTについてはさまざまな議論がなされていますが、過去の歴史をみると、貨幣をたくさん刷ったことによりお金の価値が下がって、インフレを食い止めることが難しかった国の例もあり、理論として成り立っても現実には受け入れられないとの意見があります。

財政赤字は善か悪か 日本はMMTの成功例か?

さて、MMTの考え方によれば「過度のインフレにならない限り、国債をいくら発行してもよく、財政赤字は問題にならない」としています。多くの経済論が「財政赤字で政府の借金が膨らむことは、問題を引き起こすので悪いこと」だと考えられていることと真逆の考え方です。

また、日本やアメリカは、自国の通貨を中央銀行や日銀が発行しているので、財政赤字が膨らんだとしてもMMTの理論上は何ら問題がないことになります。
本当に財政赤字は問題にならないのでしょうか。ここではよくニュースにも取り上げられる「財政赤字」に注目して考えてみましょう。

実はMMT(Modern Monetary Theory )は、モダンという言葉が使われていますが、最近出てきた理論ではなく、20年くらい前からあるものです。アメリカでMMTが話題にのぼるようになり、日本の政府債務がGDPの240%ちかくになっても国家破綻などが起こらないので、「巨額の財政赤字でもインフレも金利上昇も起こらない日本はMMTの成功例」として取り上げられました。

そのようなマスコミの報道を受けて、国会でも議論され、財務省はMMTに反論する動きを見せています。日銀が国債を民間の金融機関から買い入れて景気を刺激する政策のアベノミクスの「異次元の金融緩和」がMMTと同じだという見方をする意見もあります。しかし、政府と日銀は別物で、日銀は政府から直接国債を買っていません。歴史上では、政府に通貨を発行する権限を与えると権限を乱用することが起きています。

日本の財政赤字はどうなっているのか

財政赤字とは、政府の支出が収入を上回る状態で、日本の場合には、景気がよくなっても赤字が少なくならない状況に陥っています。ですから歳出のうち税収で足りない部分を国債の発行で埋め合わせています。2020年度の国の予算102.7兆円の歳入は、税収が約3分の2で、残りの約3分の1は国債により調達される公債金(借金)に依存※1しています。
2020年度の新たな借金の金額は32.6兆円です。さらに2021年度は106.6兆円の予算案を提出しており、社会保障費の増加や新型コロナウイルスの対策費もあり9年連続で過去最大になっており、歳出は増える一方です。

このように歳出が拡大していることを受けて、財務省によれば、2020年12月末の日本政府の借金は1212兆4680億円※2になったとの発表がされました。国の借金とは、国債、借入金、政府短期証券の残高を合わせた政府の債務のことをいいます。2020年3月末時点では1114兆5400億円だったので、1年経たないうちに97兆9280億円も増え、過去最大を更新し続けています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い借金が増えたことも要因の一つになっています。

この国の借金の返済は、将来の世代へ負担を先送りしていることになります。現在の社会保障制度を持続可能なものにするために消費税を増税したり、医療費の収入相応の負担を求める改正がされたりするなど、負担の引き上げが求められています。

特に日本の場合には、少子高齢化が進むこともあり、社会保障費の増加が避けられません。受け取る社会保障費と保険料の負担の関係は、今後も大きな課題となっています。
※1:財務省「財政はどのくらい借金に依存しているのか」https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/situation-debt.html
※2:財務省「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和2年12月末現在)」https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/202012.html

諸外国との債務比較

日本はたくさんの借金を抱えていますが、このような政府の借金を抱えているのは日本ばかりではありません。
国の借金である政府債務は、GDPや国の収入と比較してどれくらいの借金をしているかをくらべ、深刻度の目安としています。

2020年に発表された国際通貨基金(IMF)2019年の政府総債務残高※3では、対GDP比で
 1位 日本 238%
 2位 ベネズエラ 232.8%
 3位 スーダン 201.6%
 4位 エリトリア 189.3%
 5位 ギリシャ 180.9%
となっています。なんと日本は債務残高では世界でワースト1位なのです。

同じように先進国の債務残高を2019年INFのデータ※4で見ると(対GDP比)、
 日本 238%
 イタリア 134.8%
 アメリカ 108.7%
 フランス 98.1%
 カナダ 88.6%
 イギリス 85.4%
 ドイツ 59.5%
先進国でも日本の債務が突出して比率が高いことがわかります。主要先進国の中でも政府債務の残高がGDPの2倍を超えており、高い水準にあります。

さらにIMFが2021年1月に発表した「財政モニター」※5の報告によると、コロナ禍の影響で先進国の政府債務がどんどん増えているとのことです。
先進国の政府債務残高は2019年に104.8%、2020年に122.7%に拡大し、2021年には124.9%に膨らむ予想になっています。その債務残高比率は、第2次世界大戦直後の124.1%を上回るものです。

日本は特に債務残高比率が高いため、このまま債務が拡大していけば、国債の格下げにつながるなどマイナスの影響が出てくるかもしれません。
※3:IMF「General government gross debt」https://www.imf.org/external/datamapper/GGXWDG_NGDP@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD、世界の経済・統計 情報サイト「世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング」https://ecodb.net/ranking/imf_ggxwdg_ngdp.html
※4:IMF「General government gross debt」https://www.imf.org/external/datamapper/GGXWDG_NGDP@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD
※5:IMF「財政モニター」https://www.imf.org/ja/Publications/FM/Issues/2021/01/20/fiscal-monitor-update-january-2021

さて、MMTのどこが問題なのか?
MMTの考え方で問題になるのは、「インフレになる場合には国債を発行することを止めればよい」としていることがあげられます。

まず、すぐに政策の変更が可能なのかということです。増税や支出の削減いった政策の変更は、法律を成立させたうえで施行まで一定の期間を設けて行われます。政策をすぐにやめなければインフレになる可能性が高い場合には手遅れになり、方針変更の見極めはたいへん難しいといえます。

またMMTでは経済活動が縮小する場合には、政府が財政再建をせずに、さらに借金をして支出すべきだとしています。
財源の裏打ちのない財政赤字を続けた場合にインフレになれば、政府の借金が多ければ多いほど金利上昇の負担は重たくなり、万が一の被害が大きくなります。お金持ちはよいにしても、貯蓄が少ない人や高齢者の暮らしは苦しくなることが予想されます。

日本はインフレになりにくい性質があり、物を買い急ぐあまりインフレになってしまったという可能性は低い国です。しかし、仕事を簡単に辞めて転職することができるアメリカではインフレが起きやすいといえるでしょう。
物価が上がると賃金が上がります。そうするとさらに物価が上がるというインフレが加速しやすいお国柄です。ですからアメリカの財政赤字の拡大が進めば、インフレになった場合には日本よりも危険な状況に陥ることが危惧されます。

さらにMMTは国内の影響だけにとどまりません。
アメリカの米ドルは、世界の基軸通貨です。対外的な支払いに世界的に利用されている通貨なので、もしインフレになって金融が引き締められることになれば、米ドルが不足したり、金利が上がってしまったりすることで貿易の決済に支障が出てくる可能性があります。そうなれば、影響は国内だけではなく、世界の国々にまでおよぶことになります。

日本のように金利が非常に低いことは政府の国債を発行して支出拡大をしやすいのですが、長期的な経済成長の見通しが減速している中では、インフレにいつ転じるのかわかりません。
経済理論の中でも異端とわれているMMTに乗っかって「財政破綻しないから日本の経済は大丈夫だ」とか、「今まで何もなかったから」と調子に乗るのは危険です。
一方で、MMTのメリット・デメリットを踏まえ、日本の風土に合わせた柔軟な「改良版MMT」を実践するのは悪くないと考えます。

池田 幸代

株式会社ブリエ 代表取締役 証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不...

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