第6話:不思議なサイクル/恋する3センチヒール
宿題を披露する俊明。
玲奈の問いに突然黙り込んでしまい・・・?
前回 第5話:「肉バル」
第6話:「不思議なサイクル」
「あの、話しが少し脱線してしまうかも知れないんですけれど…」
玲奈さんは、両手でハイボールを持ったまま、首を傾げた。
頬にかかる髪の毛が、サラッと動いた。
「ふと、お金は使えば使う程増えていく、っていう話しを友達から聞いたことを思い出して。資産運用とかも、近い考え方なのかなって思ったんです」
ハイボールを口に含みながら、ふむふむと玲奈さんは頷いた。
「経済学の考え方でいうと、そうかもね!」
右手の人差し指をピッと立てて、玲奈さんは笑った。
自分の知識について話す時、玲奈さんの目はキラキラと輝く。この顔に、昔から弱い。
「俊明くんがお金を使う時って、どんな時?」
「うーん。何か、欲しいものとかがあった時とかですかね?」
「つまり、お店とかに対して支払うってことだよね?」
「そうです」
玲奈さんは、楽しそうだ。
「俊明くんが払ったお金の分、お店側は利益が発生していることになるでしょ?そうやって沢山の人がお金を払っていくと、イコール企業の利益が増えていくことになるよね?」
「確かに、そうですね」
「企業は、その利益を使って生産力を増やして、雇用や設備投資とかも増えていく。そしたら、社会全体で見たとき、どうなるかな?」
頭の中で、自分が払ったお金が他人の利益になって、そのお金がドンドン循環していく図を想像した。
「売上が伸びるってことは、お給料も上がりそうですね」
「そう、その通り!」
嬉しそうな声を上げて、玲奈さんが二カッとした笑顔を見せた。
「社会全体で見たときに、雇用の枠が増えれば失業率も下がるし、給料も上がるっていうイメージ。だから、今も金利を低くして、市場にお金が出回るようにしているんだよ」
「マイナス金利ってやつですか?」
「そういうこと」
「なんか、経済とかお金の流れとか、もっと難しいものだと思っていたんですけど、意外にシンプルなんですね」
自分が頼んだ赤ワインをぼんやりと見ながら、この店に払うお金も巡り巡って誰かのお給料や何かに使われていくのだと思うと、不思議なサイクルの中で自分が生きていることを感じた。
その中で、玲奈さんも自分も生きている。
二杯目にして、少し酔ってきたような気がした。