4章第7話:「風が吹けば桶屋が儲かる」/恋する3センチヒール

恋する3センチヒール

玲奈の言葉を受け、俊明は相談相手の元へ。
そこで意外な人物を見つけて…
前回 4章第6話:「陽気なピーナッツ」

4章第7話「風が吹けば桶屋が儲かる」

「ほれ、見てみぃ」

オトンが あご で指した方を見ると、刺身を丁寧に さば いている男がいた。

「誰?」

神楽坂の料亭のカウンター席。オトンが指定してきた店にしては、洒落 しゃれ ている。

「新橋の居酒屋の店主や。今年の三月に独立したんやと」

そう言われてみると、確かにどこかで見たような…。
揚げたての海老の天ぷらを頬張りながら、ぼんやりと眺めた。

「で、悩みってなんや」

オトンは、冷酒を片手にこっちを見てニヤニヤと笑った。

「女か?」

「いや、ちゃう。資産運用の話しや」

渋い顔をしてこっちを見るオトンに、日本酒を注いだ。

「風が吹けば桶屋 おけや もう かる」

オトンが呟いた一言に、オトンの顔を改めて見た。

「なんや?」

「風が吹くと土埃 つちぼこり が立つ。その埃が目に入って目の不自由な人が増える。その人達は三味線を買って商売を始める。三味線には猫の皮を使っているから、猫が減る。猫が減ると、ネズミが増えて、そのネズミが桶を かじ る。そうすると、桶の需要が増えて、桶屋が儲かるっていう日本のことわざや」

「随分、大袈裟なことわざやなぁ…」

「けどな、これが経済の縮図みたいなもんなんやで」

机に運ばれてきた刺身を味わうようにして、オトンは食べた。

「世の中っていうもんはな、ミクロの視点で見ると全て一つ一つが個別化されているように見えるけどな、マクロの視点で見ると全部全部繋がっているんや。運用の何に、悩んどるんや?」

「仲良い先輩から不動産投資を勧められているんやけど、始める踏ん切りが付かへんねん…」

やらない理由もないけれど、自分の中ではじめる理由もイマイチ見つからず…。
思わず漏れた本音に、溜息が出た。

「不動産投資言うたら、歴史ある投資先や。江戸時代の町人が、自分の土地に長屋を建てて、庶民向けに貸家経営を始めたのが不動産投資の起源と言われてるんやから」

メニューを広げながら、オトンは言った。

「ほーん。知らんかったわ。江戸時代から成り立っていた仕組みなんやな」

「まぁ、不動産は衣食住にも含まれてるしな。オトンも、品川にワンルームタイプの投資用物件を2つ持っとるんよ?」

「ほんまに!?」

思わず出た大きな声に、店主が顔を上げた。
慌てて頭を下げると、にこやかに対応された。

「10年前に購入したんや。地価が上がっているから、キャピタルゲインも狙えそうや」

料理を追加注文したオトンは、自慢げに笑った。

「ワンルームマンションは、東京都23区すべてに条例か指導要網の建築規制があるからな。住民票を移動させない単身者が多いから、住民税は未納なのに行政サービス受けるっていう事態が発生しやすい分、沢山建てる訳にはいかへん。せやから単身世帯に対して、都内のワンルームマンションは常に供給戸数が足りへん。どういう事か分かるか?」

「なるほどなぁ。供給戸数が足りてないから、空室リスクが少ないってことなんや!」

「そういうことや」

僕の空いているグラスをコンコンとオトンが叩いたので、生ビールを追加で注文した。

4章第8話:「投資とオトンと店主と」

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

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