【最終話】第20話:「Every day is new day」/NO(money+love) —私らしい人生って?—

NO(money+love)

ついに最終話。
まりんはなぜ潤んだ目をしていたのか。すべてが明らかになる。
前回 第19話:「不動産投資」

第20話「Every day is new day」

「ねぇ、みてこれ!」

私の前に座った桃夏さんは、二つ折りの紙を渡してきた。
朝活、初日の夜。
受け取った私は、そのまま紙を広げた。

【NO(money+love)】

紙に書かれている言葉を見て、私は首を傾げた。

「お金もない、男もない。まりんに昨日言われた言葉をね、昼休憩の時にボンヤリと考えていて。そしたら、2つともNOが付くって気がついて。じゃあ、カッコで括れるじゃん!って思って、括ってみたの」

「なんか、綺麗に纏まっていますね」

「でしょ。でね、私にとってのまりんって、この数式で考えるとNOなんだなって思って」

「んっ?どういうことですか?」

私が桃夏さんと紙を交互に見ると、桃夏さんはイキイキした表情で説明を始めた。

「数式だと考えると、NOで割れば、このNOって消えるでしょ?」

「そうですね、そしたらmoneyとloveが残りますね」

「まりんが今までの私の生活にNO!っていう声を上げたら、こっちのNOも消えそうだなって」

「あー!なるほど。NOを消すべく、頑張りますねっ」

私の返事に、桃夏さんは急に照れたように顔を赤らめて、私から紙を回収した。

「けど、急にくだらない事を言ってごめんね。まりんに伝えたくなっちゃっただけだから、気にしないで」

桃夏さんが机の上に置いた紙を私はもう一度手にとった。

「丁度、コンサルノートにタイトルでも付けたいなって考えていたところなんです。このタイトルにして、最後NOを消すことを目標にしましょう。達成されたなと思ったら、その時に桃夏さんが自分でサインペンとかでNOを消して下さいっ」

嬉しそうな顔をした桃夏さんをみて、私はタイトルを打ち込んだ。
そのタイトルが打ち込まれたコンサルノートを机の上に置く日が、ついに来てしまった。

誰もいないリビング。
リビングに出したスーツケースも、名残惜しそうに佇んでいるように見える。
そのスーツケースすらも、ボンヤリと風景に滲んでいく。
エアコンのスイッチを押して、私はドライを止めた。
エアコンの口が閉まり切るまでの時間、私はゆっくりとリビングを見渡すように一回転をした。
回転している時の頭の中は空っぽで、何かを考えていた訳ではなかった。
ただ、元々立っていた位置まで戻ってくると、涙がポツリと床に落ちた。

「桃夏ちゃんって、覚えてる?」

日本への一時帰国の一週間前にした、母との国際通話。
母が言った一言に、私はパソコンを打っていた手を休めた。

「読者モデルだった?」

「そう!桃夏ちゃん

母は安心したように、少し高い声を出した。

「桃夏さんが、どうかしたの?」

「あっ、えと…、来週には日本に帰ってくるのよね?」

何かを言いかけた母が話題をすり替えた時には、何だか嫌な気配がした。

「その予定だけど、なんで?」

「帰国したら、どこかに出掛ける予定とかは立てているの?」

「こっちで覚えることとか多すぎて、一時帰国については何も考えられてないけど…」

「そうよね。仕事、大変だものね。日本では、ゆっくりしたいわよね」

ハッキリしない母に、現地時間で深夜3時だった私は痺れを切らした。

「要件は、何?」

私がイラついていることを感じとった母は、少し申し訳なさそうな声で言った。

「桃夏ちゃんのコンサルをしてくれないかって、洋子から相談を受けたの」

—桃夏さんのコンサル?

言っている意味が分からなさすぎて、私は返しに困った。

「どういうこと?」

「なんか、数年間付き合った人と別れた後、桃夏ちゃん塞ぎ込んでいるみたいで。洋子が声掛けたりしても、ダメみたいなの。そこで、年齢が近いまりんなら、桃夏ちゃんの心を開くことが出来るんじゃないかって…」

「いや、洋子おばさん、どうかしてるよ。私、ほぼ会ったことないもん。普通に考えて無理だから!断っといて」

電話を切ろうと、電話を耳から話した。
けれども、続いて聴こえた母の声に、仕方なく耳を当てた。
その声は、震えていた。

「もちろん、私も、おかしいとは思うわ。けれど、洋子、まだ桃夏ちゃんには伝えていないらしいんだけど、癌が発見してね。余命が…、あと少しかも知れないんだって。それを聞いて、必死に頭を下げられたら私も断れなくて。とにかく、桃夏ちゃんのことが気掛かりみたいで…。お願い、出来ないかな?けれど、まりんの都合っていうものもあるし、本当に無理なら大丈夫だけど」

優しい表情で微笑む、洋子おばさんを思い出した。

—洋子おばさんの、余命が少ない…?

深夜の私の頭は、よくよく物事を考えるには適してなかった。
ただ、一つ分かったのは、今断ったら変な罪悪感を一生背負うかもしれないという事だけ。
いつの間に、私の口は言葉を発していた。

「いいよ、分かった。出来ることは、やってみる」

あの日から、約一ヶ月。
桃夏さんが仕事に行っている時間に、洋子おばさんの病院と実家に通う生活を送った約2週間半。
出来ることは、やった。
ただ、最後にどうしても、桃夏さんに「さよなら」を伝える勇気だけがなかった。

「まりんって、いつアメリカに戻るの?」

「今週の日曜日の飛行機で、帰りますっ」

数分前に玄関で見送りをした桃夏さんに対して、私は笑顔でサラッと嘘をついた。

「あと数日かぁ。寂しいなぁ…」

「わっ。お手洗い」

桃夏さんの一言に、涙腺が一気に刺激されて、逃げるようにしてトイレに駆け込んだ。
桃夏さんは笑いながら「行ってきまーす」と元気に言って出て行った。
「行ってらっしゃい」の一言すら発せない程、嗚咽を漏らさないように必死だったトイレ。

ドアがしまる音。桃夏さんが鍵を閉める音。遠ざかるヒールの音…。
ぐちゃぐちゃな顔のままトイレから出て、涙が止まるのを待った後、スーツケースをリビングへと運び出した。

【さよならを言えずに、すみません。今日まで、ありがとうございました。NOが消される日がきたら、教えて下さいね】

簡単な手紙を付箋に書いて、机に置いたコンサルノート。
今から空港に向かって、数時間後には雲の上。
私がいなくなって寂しくないように購入した大きなウサギの抱き枕は、桃夏さんのベッドに寝かしておいた。
私はそっと、コンサルノートのNOの文字を自分の左手の掌で隠した。

「桃夏さんは、きっと大丈夫」

洋子おばさんの余命のこと、まだ新しい恋人はいないこと、突然私が帰国すること、資産運用もやっと動き始めたてだということ。
桃夏さんに対する、色んなことが脳内を巡った。

ただ、今日この家を去る私は、桃夏さんの幸せを祈ることしか出来ない。
自分の不甲斐なさと、ずるさを感じながら、私は玄関の扉を開けて外に出た。

【まりんのお陰で、新しい人生を頑張れそう!ありがとね。またね】

鍵を閉めようとして、気が付いた桃夏さんの言葉に、口元を抑えた。

「ずるいですよ、桃夏さん…」

涙を必死に拭った。桃夏さんとは、どこに行ってもきっと繋がっている。
最後は、口角を上げてドアに向かって頭を下げた。

ーEvery day is new day.

新しい毎日が、またスタートする。

「NO(money+love) —私らしい人生って?—」ご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。
恋愛小説第1作の「恋する3センチヒール」をまだみていない方はぜひご覧ください。
恋する3センチヒール

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

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