第7話:「過去のネック」/NO(money+love) —私らしい人生って?—

NO(money+love)

自分のことを自分で幸せにするためまずはなぜ保険に加入しなかったかの理由を探ることに。
理由にはある男性の存在がいて…
前回 第6話「シンプルなルール」

第7話「過去のネック」

「はじめまして。BC生命の山本心音と申します」

「桃夏さんの親戚の南山まりんです。訳あって居候してます」

朝活を始めてから4日目。
朝7時に山本さんは、やってきた。

「こんな早い時間に、ありがとう。メールで聞けば良いかなって思ったんだけど、まりんが直接会って聞いた方が良いって譲らなくて」

「いえいえ、私も直近の予定が埋まってしまっていたので、気にしないで下さい。むしろ、朝の時間を提案して下さって良かったです!しかも、中園さんからご連絡頂いただけで、とっても嬉しく思いました。やっぱり、メールや電話で間接的にお話しするのと直接お会いするのって全然違いますしね」

2年前と変わらない、茶髪のボブに、ほんのり内巻きパーマ。
きっと6時には家を出てきたであろう山本さんの見た目は、きちんと整っていた。

「早速なんですけど、今日は山本さんにお伺いしたいことがありまして…」

最近まりんがハマっているというカモミールティーの香りが部屋に漂う中、まりんが山本さんに向かって身を乗り出した。

「私に答えられることであれば、なんでも答えます」

キリッとした表情をした山本さんに、まりんは安心したような顔をした。

「単刀直入に聞いちゃうんですけど、2年前に桃夏さんが、山本さんの保険を断った理由って覚えていますか?」

山本さんは少しの間天井を見て考えると、「思い出しました!」とポンっと手を叩いた。

「彼氏さんが、保険に対して良いイメージがなかったようで、反対されてしまったと謝罪の電話を頂きました。もう少し、生活に余裕が出来てから、もう一度検討したいと…」

「まさかの彼氏ネック!」

山本さんの話しを遮って、まりんは少し大きな声を上げた。
そういえば、海斗は保険に月々のお金を支払うことに対して猛反対してきたなと、山本さんを前にして思い出した。
よく考えてみれば、私は海斗にとってお財布だった。
自分のお財布が違うところにも出資を始めるなんて、生活がかかっていた海斗の立場からしてみると、とんでもないことだったはずだ。
それが、将来的に自分自身に関わってくることだったとしても、私との将来なんて最初から考えていなかったのかも知れない。

「桃夏さん、この件に関しては後でゆっくり話し合いましょうね」

まりんは、にっこりとワザとらしく微笑んだ。
私が苦笑いを浮かべながら頷くと、山本さんは不思議そうな顔をしながら軽く微笑んだ。

「ちなみに、桃夏さんと山本さん2人で話した時は、桃夏さんはどんな反応だったんですか?」

山本さんは、鞄に入っていた資料を一部取り出して、机に広げた。

「私の勤め先であるBC保険は、貯蓄型の保険をメインで扱っている会社なんです。当時の中園さんは、保険を含め資産運用に関しては何も手をつけていなかったので、個人年金保険としての貯蓄型保険と医療保険を提案させて頂きました」

「桃夏さん、今も特に何もしていないですよね?」

まりんの一言が、グサッと刺さった。
2年前にも同じような資料を見たなと、山本さんの資料を見て思った。

「恥ずかしながら…」

私の家であるはずなのに、どうも今日は肩身が狭い。

「で、提案を聞いた桃夏さんは、どんな反応だったんですか?」

「結婚や出産を考えると、今のうちから老後の備えは少ない資金でコツコツ貯めておいた方が良いですね!と言って下さったのが、印象的でした」

「ちゃんと桃夏さん、未来の自分のことを考えられていたんですね」

「そうですね。結構楽観的な方って多かったりもするんですけど、中園さんは先の未来のことを日頃から考えていらっしゃる方だなと思いました。彼氏さん想いでしたし…」

—彼氏想い。

確かに、私は海斗のことが好きだった。
相手の幸せを願うことが愛ならば、私は海斗を愛していたとも言えるはずだ。
海斗を中心に、私の世界は構築されていた。
保険の提案を受けて、加入を決めたのも、海斗との未来を考えた上での選択だった。
だけれども…、海斗は私の名前を呼ぶことさえなかった。
出会いたてに「桃ちん」と数回だけ呼んでいただけ。
「好き」の一言も聞いたことがない。
ただ、私は私の為にも、海斗に愛されていると信じていたかった。
保険について反対されたあの夜も、海斗は私のことを思って言ってくれたのだと思い込もうとした。
あの時、頬を流れた涙が、私の本音だったと今更気が付くことになるとは知らずに。

「あの時の彼氏は、もういないんだけどね」
笑顔で言えた。
まりんが、ホッとしたような顔をした。

「実は今、桃夏さんの人生を変えるプロジェクトを始動中なんです!」

「あらっ!なんか素敵ですね」

カモミールティーに口を付けていた山本さんは、ニッコリと微笑んだ。

「こう見えてシッカリ者だから、面倒見てもらうことにしちゃいました」

横で分かりやすいドヤ顔をしたまりんの脇に、一発攻撃を仕掛けた。

「ちょっ、脇は」と言いながら、笑うまりん。

山本さんも、笑ってくれた。
カモミールティーを飲み終わった山本さんは、私とまりんと簡単な朝食を食べて、次のお客様との約束があるとのことで8時過ぎに家を出た。

「今日は、ありがとうございました。桃夏さんの人生を変えるプロジェクト、私も何かお手伝い出来たら嬉しいです!桃夏さんと出会ってから、お洋服選びが楽しくなって、私自身も変われたので、今度は私も桃夏さんの為に力になりたいです」

帰り際の山本さんの一言に、少しだけ涙腺が緩んだ。
山本さんが帰ったあと、まりんは私の服の裾を軽く2回引っ張ってきた。

「心音さん、お会いできて良かったですね」

「久しぶりに会えて嬉しかった。ありがとー!」

喜びが一人では処理しきれず、思わずまりんに抱きついた。

第8話:「不明金の行方」

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

プロフィール

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