第6話:「シンプルなルール」/NO(money+love) —私らしい人生って?—

NO(money+love)

自分のことを大事にしない桃夏に対し、怒ってしまうまりん。
桃夏を変えるシンプルなルールとは…
前回 第5話「朝活と思い出」

第6話「シンプルなルール」

「よく考えたら、まだ早朝だし、連絡は後でするね」

一度開いた山本さんの連絡先をしまうと、まりんは明らか様に疑い深そうな目をした。

「ほんとにですね?」

「うん、今日中には必ず」

「約束ですよ」

まりんの目を見て、私は大きく二回頷いた。

「じゃあ、とりあえず、桃夏さんの今後のビジョンをお伺いします」

「ビジョン?現状ではなく?」

「現状は、ある程度把握出来ているので大丈夫です。まりん流にコンサルしていくので、お任せ下さいっ」

ビジョン。
30歳になったら結婚して、子供がいて、庭付きのマイホームに住んで…。
そんなボンヤリとしたイメージが、必ず実現するものだと若い頃は思っていた。

若い頃…と言っても、比較的つい最近まで。

まだ、大丈夫。
まだ、いける。

そんな言葉を繰り返して、気がつけば30歳。

アンケート調査等で年代を答える時も、今後一生20代には丸を付けられなくなった。

20代、独身。30代、独身。
同じ独身なのに、全然響きが違う。

40代、独身。50代、独身。
独身続きで、一生を終えるのか。

そんな人生がこれから先に待ち受けていたとしても、抵抗できる気がしない。
むしろ、受け入れる準備が、出来てきた気がしてきた。

「私、ビジョンないや…」

「え?」

「30歳独身だよ。ビジョンなんて、今はなんか描ける気がしないよ。3年付き合った彼氏と別れたばかりだし、特に今は無理だよ」

パタンと、まりんはノートパソコンを閉じた。

「謝って下さい」

「は?誰に?」

「桃夏さん自身にです」

真面目な顔をして変なことを言ってきたまりんに、私はつい笑ってしまった。

「えっ、なんで私が私に謝らなきゃいけないの?」

「大切に、扱っていないからです。30歳になったからっていって、桃夏さんが桃夏さんを見捨ててどうするんですか?幸せになることを諦めちゃって、どうするんですか?あわよくば幸せに…、なんて言うのであれば一生変われませんよ」

私は笑ってしまったのに、まりんは真剣な表情でジッと私の目を見ている。

「謝って、そして誓って下さい。白馬の王子だとか、他人じゃなくて、自分で自分を幸せにします!って」

本気で怒っているようだ。

「ごめんなさい」

場の雰囲気に負けて、つい謝罪の言葉を口にした。
私の声は、私に届いている。

「誓いの言葉は?」

「私が、私を幸せにします」

自分に謝罪して、誓いを立てるなんて初めての経験だった。
じんわりと、何か温かいものが私の中に広がったのを感じた。
大袈裟かも知れないけれども、私は私の言葉に安心したようだった。
まりんは、手を叩いて柔らかい音の拍手をして、目を線にして嬉しそうに笑った。

「世の中には、とってもシンプルなルールがあるんです」

「どんなルール?」

手招きをしてきたまりんに顔を近づけると、耳元でまりんは囁いた。

「ハッピーを渡すと、ハッピーが返ってくる」

元の位置に戻ったまりんと目が合って、まりんが微笑むと、私の口角も上に上がった。

—そっか、こういうことか。なるほど。

「他人にハッピーを渡す為には、まず自分自身が満たされている状態であることが大切なんです。満たされている状態って言うと、他人から与えられている状態だと勘違いする人が多いんですけど、自分って自分自身に愛されていると感じないと満たされない生き物なんです」

「確かに、何だか分かる気もするなぁ…」

「貯金とかもして、一人でも生きていける状態にしていきましょ。それは、諦めるっていうよりも、希望のためにです。類は友を呼ぶっていうコトワザがあるように、自分に余裕を持つと、余裕を持った素敵な男性と巡り会えますよ」

いつの間にかに、私は自分の手をキュッと握りしめていた。

「ベースは整いましたね!今日は晴れているので、ランニングをしてから朝ごはんを作りましょう」

思いもよらないまりんの言葉に、思わず私は顔を顰めた。

第7話:「過去のネック」

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

プロフィール

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