金融商品にかかる税金はどうなっている?今後増えるかもしれないって本当?
「1億円の壁」問題とは何?
金融所得課税強化のもとで、「1億円の壁」の問題が浮上しました。1億円の壁とは、所得額に対する所得税負担の割合(負担率)が、5000万円超1億円以下がピークになり、所得1億円を境にして所得がそれを上回ると負担率は逆に下がることをいいます。
国税庁の「令和元年分申告所得税標本調査結果」によれば、
5000万円1億円以下 27.9%
1億円超 23.2%
100億円超 16.1%
の所得税負担率になっています。
●所得税及び復興特別所得税の負担割合
出所:国税庁「令和元年分申告所得税標本調査結果」第24表から引用
また収入の内訳を見ると、所得が1億円を超えるケースでは、株式等の譲渡所得や配当所得の割合が1億円以下に比べると多くなっています。この1億円の壁が問題視されているのは、1億円を超える高額所得者層では、所得税の負担率が低下することだけではなく、所得に占める金融所得の割合が増加することによって、保有する金融資産によって所得の格差が生じていることです。言い換えれば、お金持ちは何もしなくても、お金持ちでいられる状況が続き、格差の固定化につながっていると考えられています。金融資産の在り方が、資産形成に大きく影響していることがご理解いただけるのではないでしょうか。
そこで、「1億円の壁」問題は、所得が大きい人にはより多く税金を負担してもらうという、税の公平感を保つことや、高所得者から低所得者へ所得の分配がされる機能を回復すべきという課題を含んでいます。岸田政権では、この「1億円の壁」のグラフを用いて、株式の譲渡等で儲けているのなら、金融所得課税を強化すべきだと主張していたのです。しかし、1億円超の所得者の割合は、申告者全体の0.3%にしかすぎません。
またこのデータには源泉徴収だけで納税が終わった給与所得者は含まれていません。国民の一部分だけを切り取ったデータでは、本来の国民の姿は見えないと思います。
しかし、金融所得といっても株式の売買益や上場株式の配当だけではなく、会社が上場したときに自社株を売却する場合まで幅広い事案が含まれています。これから起業しIPO(新規公開)を目指したいと思っている経営者や、リスクを取って投資する人もいます。1億円の壁の問題があるからといって、格差の是正だけを求めて金融所得課税の強化を打ち出すのは、妥当とはいえない気がします。
●合計所得階層別、所得税負担率と金融所得の割合(2019年)
出所:日本総研 「金融所得課税の議論に欠けている視点 ~選択制総合課税の導入と「機会の平等」重視を~」から引用
富裕層をめぐる税金以外の視点
金融所得は、所得税だけではなく、その他にも有利に働いているものがあります。住民税においては、金融所得は給与所得より有利になります。給与所得においては、収入から給与所得控除やその他の所得控除をされた課税所得金額に対して、10%の税率が適用されます。一方、金融所得は分離課税なので給与所得とは切り離して、住民税は5%で済みます。
また社会保険料についても、健康保険料が50等級に分けられていますが、報酬月額が139万円以上のケースが上限なので、その金額をいくら超えても毎月の健康保険料は同じです。また厚生年金では35の等級に分けられているので、所得が高額の人にとっては、割安な年金保険料になるといえます。
一般的には所得が大きければ、税金が高いと思いがちですが、富裕層と呼ばれる高所得のお金持ちの場合には、税金以外の場面でも有利になる制度があるのです。