厚生年金保険料「32等級」でどう変わる? 影響が出る人とは

厚生年金保険料「32等級」でどう変わる? 影響が出る人とは
マネーケア

32等級になるのはどんな人? 手取りは(31等級と比べて)どのくらい減る?

以前の上限等級の31等級は標準報酬月額60万5000円以上の人すべてとなっていましたが、2020年9月分からは、その内63万5000円以上の人が32等級となります。
1ヵ月の総報酬が63万5000円以上の人というと、絶対数がそれほど多くはないと思われるかもしれませんが、厚生年金の保険料が上がれば会社負担も増えるので、最高等級に該当する人が複数人いる場合、会社にとっては影響が少ないとはいえません。

上限等級が増え標準報酬月額が上がったことに伴って、月額の厚生年金保険料も11万3460円から11万8950円へと5490円アップして、負担は会社との折半なので個人の負担が2745円増えます。
個人の保険料負担が月額2745円増額しますが、社会保険料の増額によって所得税額が減額になるので、扶養している人数などによって多少の違いはありますが、手取りとしては月2200円ほど減ることになるでしょう。月額2200円とはいえ年間にすると、2万6400円です。家計として考えてみると痛い額ではあります。

4~6月は働きすぎないほうがいいの?

給料から引かれるものは少しでも少ない額のほうが嬉しいに決まっています。
健康保険、厚生年金保険料は給料に比例して保険料が変わるのですが、給料は残業時間によって毎月変わりますね。であれば、保険料も毎月変わるのかと思いがちですがそうではありません。

健康保険と厚生年金保険の標準報酬月額は、毎年4月~6月の3ヵ月間に受け取った総額を平均して求めます。
給料の総額なので、各種手当も含みます。役職手当や扶養手当はもちろん、通勤手当や残業代も含めた総額となります。4月~6月に受け取る給料に反映される月には残業が多くて給料が増えた場合、それが基本となって標準報酬月額が決まってしまいます。
その決まった標準報酬月額は同じ年の9月分の健康保険、厚生年金保険の保険料から変更となって、基本的には1年間かわりません。

もしその後残業が減って7月以降に受け取る給料が減ってしまったとしても、標準報酬月額はあくまでも4月~6月に受け取った総額で決まり、9月分以降1年間は変更がないので、残業のない減った給料から、残業が多く高かった給料で計算された保険料を1年間払うことになってしまいます。

4月~6月は残業しないほうがいいといわれるのは、健康保険と厚生年金保険料が決まるのが4月~6月の給料が基本であることと、1年間変更されないことからなのです。
とはいっても、健康保険も厚生年金保険も「保険」である以上、保険料に見合った補償があるわけで、そこをちゃんと理解していないと、やみくもに4月~6月の給料を下げる努力をして、あとで痛い目にあう危険性も出てきます。

厚生年金保険料が増えることによるメリットもある

厚生年金も保険なので、料率が同じであれば負担が増えることによって補償も増えます。
厚生年金保険上限等級が増えて、32等級65万円ができたことによってメリットもあるのです。

厚生年金保険は、20歳~60歳の人が必ず加入しなければいけない国民年金の上乗せの制度です。その厚生年金は、受け取り金額の決定には加入期間中の「平均標準報酬額」が計算基礎となります。平均標準報酬額とは、標準報酬月額と賞与の標準賞与額を合算して期間平均したものです。

厚生年金の受給額は下記のように計算されます。
・2003年4月以降の期間

計算式:加入期間中の平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数

・2003年3月までの期間

計算式:加入期間中の平均標準報酬月額×7.125/1000×加入月数

例えば、3万円標準報酬月額が増え、その期間が20年あれば、30,000円×5.481/1000×240カ月=年間約4万円年金が増額されます。
85歳まで生きたとすると、年間約4万円×(85歳-65歳)=約80万円の増額。
100歳まで生きたとすると、上限等級が上がったことにより約140万円近く多くの年金を受け取ることができます。
老齢年金は終身で受け取ることができるという大きな特徴があるので、長生きすればするほど受け取る年金の総額は増えていきます。

老齢年金だけ家ではなく、「障害年金」と「遺族年金」もある

「年金=老後のお金」と決めつけている人も多いのですが、そうではありません。公的年金には老齢年金以外にも「障害年金」と「遺族年金」があります。

障害年金は病気やけが、不慮の事故などが原因で体に障害が残った場合、その障害の程度によっては受け取ることができる年金です。また遺族年金は、被保険者だった本人が亡くなったときに、生活費として遺族が受け取ることができる年金です。どちらも一定の条件に合致すれば、条件を満たしている期間、被保険者や遺族が若くても受け取ることができるものです。

障害年金と遺族年金も、老齢年金と同じように国民年金(基礎年金)と厚生年金に分かれますが、老齢年金と違うところは国民年金の上乗せではないことです。国民年金よりも補償される範囲が広く充実した補償内容なので、状態が国民年金では補償範囲には入らなくても、厚生年金の補償範囲にはなって、厚生年金のみ受け取ることができるというケースも多くあります。

その障害厚生年金や遺族厚生年金の計算基礎となっているのも、加入期間中の平均標準報酬額なのです。遠い将来の老後の年金が増えるだけではなくて、もし今万が一のことがあったときにも受け取る年金が増えるということです。

会社員の加入する社会保険は、会社の負担もある

筆者も会社員時代には、健康保険や厚生年金保険などの社会保険に加入していました。否応なしに毎月給料から保険料が天引きされていて、「たくさん引かれているな」「これがなかったらもっと手取りが増えるのに」と思っていたものです。

しかし今では、会社員が加入する社会保険のしくみを正しく知ると、恵まれた制度だったのだと痛感します。国民健康保険や国民年金の保険料と補償の内容と比べれば、会社員が加入する健康保険や厚生年金保険とは歴然とした差があります。

そして、老齢年金については、民間の個人年金保険と同じく負担と補償は比例するものだということもよくわかりました。個人年金と厚生年金の大きな違いは、会社が半分保険料を負担していることです。そして公的年金の最大のメリットは「生きている限り受け取り続けることができる」という安心感だと感じています。

上限の等級が増えたことで保険料が上がって、手取りは下がることになるケースも多いですが、保険というのはあくまでも助け合いの制度であることと、会社もあなたの保険料を負担しているということを理解して、目先の支払保険料の負担だけでなく正しい制度の利用を考えてもらいたいと思います。

小野 みゆき

中高年女性のお金のホームドクター 社会保険労務士・CFP・1級DCプランナー・年金マスター・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 企業で労務、健康・厚生...

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