4章第1話:「2018年5月」/恋する3センチヒール
物語は、玲奈と俊明が再会してから2年後に・・・
二人は一体どうなったのか。
玲奈が資産運用を決意した3章はこちらから
4章第1話「2018年5月」
【お世話になっております。岡田俊明です。頂いた情報をもとに物件の購入を検討しました】
紗愛子さんの社用メール宛てに、文を打ち込んでいく。
机の上には、今まで不動産投資について調べた資料と、紗愛子さんから貰ったパンフレット。
【新築マンション投資というものを知ってから、今日までの3週間。自分なりに真剣に検討してきましたが、今回は見送らせて頂きたいです】
玲奈さんの顔が、浮かんだ。
【理由と致しましては、新築マンション投資というものが自分の将来にとって有効な投資先だと思えなくなってしまったからです】
土曜日の夕方。
紗愛子さんが、紹介してくれた物件を実際に観に行って帰ってきた。
まだ、足場とビニールに覆われている物件。
3000万円。
正直、引けてしまった。
【ただ、新築マンション投資を紗愛子さんから教えて頂いた事は、自分にとって益のある事でした。投資先として、面白いものだと思いました】
約2年前。
玲奈さんから、資産運用について初めて教わった。
不動産投資が出来る男になったら、もう一度会って欲しい。
そう伝えた。
【多くのことに丁寧に対応して頂いたのにも関わらず、このような結論を出した事を申し訳なく思います】
2年前の6月に、急遽上海支社への出向が決まった玲奈さん。
メールや電話はしていたものの、玲奈さんが東京に来る日と予定が合わず、2年間まともに会えなかった。
もし、不動産投資について考えることがあればと、3ヶ月前に連絡をとった時に紗愛子さんの連絡先を教えてくれた。
玲奈さんが4月の終わりに東京に戻ってくると知ってから、紗愛子さんに連絡を入れた。
【また、何か機会がありましたら、宜しくお願い致します】
打ち込んだ文章を読み返して、溜息をついた。
自分で作成した、キャッシュフロー表を改めて見る。
新築物件よりも、中古物件に魅かれている自分がいた。
一口に不動産投資と言っても、投資物件は山ほどある。
不動産投資の奥深さに、ここにきて怖気づいてしまった。
-玲奈さんやったら、なんて言うんやろか。
メールの送信ボタンを押すのは、簡単だった。
ただ、心に残った曇り空を晴らすのは難しかった。
不動産投資の資料で溢れている机を片づけると、水色のノートが出てきた。
懐かしくページを捲る。
3ページ先。
あの時と、変わらない思いのまま過ぎた2年間。
携帯電話が音を発し、タイミングよく、玲奈さんからメッセージがきた。
玲奈さんに会えば、何かが変わるような気がして、メッセージを開いた。