第18話:「恋愛直感力」/NO(money+love) —私らしい人生って?—
合コンから帰ってきた桃夏。
まりんの洞察力はとても鋭くて?!
前回 NOマネ第17話:「夏の月」
第18話「恋愛直感力」
初めて、まりんよりも早くに目が覚めた。
強く叩きつけるような雨の音に起こされた、AM4時30分。
湿気を含んだ空気の気持ち悪さに、リビングの空調をドライに設定した後、寝起きのシャワーを浴びに行った。
23時30分頃、帰宅した昨日。
【今日は、シンデレラタイムには寝ます!明日、報告聞くのを楽しみにしてますねっ】
帰宅時間に気を遣わせない為か、22時には就寝していたまりん。
ドライヤーで髪を乾かしていると、寝癖をつけた状態のまりんが姿を現した。
「おはようございます!桃夏さん、ちゃんと寝れましたか?」
まだ完全に目が開ききっていない状態のまりんは、「くーっ」と声を出しながら横で大きく伸びをした。
「朝シャンにしようって決めて0時には寝たから、4時間半は眠ったかな。まりんは寝れた?」
「7時間しっかり寝ちゃいました!けれど、いつも4時間半睡眠だからか逆に寝過ぎた感もあります」
「寝過ぎたっていう感覚も、なかなか気持ち悪いよね」
目を擦りながら頷いたあと、歯磨きを始めた、まりん。
「レモングラスティーでも飲んで、スッキリしよっか」
「良いでふね!」
歯ブラシを咥えたまま、まりんはグッドサインを出した。
ドライをつけておいたお陰で、良い感じにヒンヤリと冷えているリビング。
レモングラスティーの茶葉にお湯を注いだあと、机を拭いて、花の水替えをした。
リビングに入ってきたまりんは、大きく息を吸って幸せそうな表情を浮かべたあと席に座った。
「昨日、どうでしたか?」
パソコンを開いたまりんは、ニタニタした表情を浮かべながらテーブルに肘をつけて首を傾げた。
【今日は、ありがとう。勉強会楽しみにしてる】
夏月さんからのメッセージを思い出した。
「なんかね、資産運用に興味がある人が偶然いて。槙本さんとの出会いがセミナーっていうのを知ったら、今度一緒に行きたいって言われた」
「お!確かに、資産運用に興味を持っている男性多いですもんね。どんなヒトだったんですか?」
「海斗とは、真反対だけど、同じ系統のヒト」
まりんは、不思議そうな顔をして、首を傾げた。
「それって、大丈夫なんですか?あっ、けど、資産運用に興味を持っている時点で、海斗さんとは違う感じがしますね」
「でしょ?ただ、海斗と夏生まれっていうところは同じ。しかも、まさかの私と誕生日同じだったの!」
私の言葉に、まりんは目を輝かせた。
「誕生日が同じって、なんだか運命的ですね!」
「だよね!そうだよね!」
私の声の浮かれ具合に、まりんは気が付いたようだった。
「これは…、もしかして…!」
右手を鼻の下あたりに当てながらニヤニヤと楽しそうに笑うまりんを見て、慌てて両手を前に出して振った。
「いや、まだ何にも」
「けど、桃夏さん的にアリってことだったっていうことですか?」
夏月さんの顔が、ポンっと頭に浮かんだ。
「うー。それを言われちゃうと、無しではないかな」
「桃夏さん、分かりやすいですね」
顔に熱を感じて、私は隠すようにレモングラスティーを飲んだ。
「なんかね、誕生日を聞く前から初めて会ったような感じがしなかったんだ。まだ、どうなるか分かんないけれど、感覚的には良いかもっていう感じがする」
「直感でそう感じたなら、それは良い相手だと思いますよ」
「そうかなぁ?けれど、相手のこと全然知らないっちゃ知らない状態だからなぁ。真っ直ぐ、恋愛出来るような年齢じゃないし」
「桃夏さんの気持ちも分からなくはないですが、アメリカ帰りの飛行機の中で『選択の科学』という本を読んだんです。その本に書いてあったことなのですが、仕事の満足度に対する調査を著者がした時に、年収等の『条件』で選んだ人と『直感』で選んだ人の数年後の満足度は、直感で選んだ人の方が仕事に対する満足度が高かったそうなんです。理由は、何だと思いますか?」
「えー。直感で選んだってことは、全てが自己責任だから?」
「それもあると思います。ただ、本に書いてあったことをそのまま言うと、『他と比べないから』っていう理由が大きいみたいです」
「あっ!なるほど。確かに、そうだね」
ステータスで相手を選んで結婚した友人が、旦那に対して不満を口にすることが多いのを思い出した。
何かと他の家庭の旦那と比べては、悲劇のヒロインになる友人。
結婚当初に心の底から祝福した気持ちが、愚痴を聞く度にシュンと悲しい気持ちになった。
「恋愛でいうと、身長も、年収も、顔も、全て上には上がいるので、ステータスで選んじゃうと満足なんて出来る訳がないんです。歳を重ねれば、状況も全て変わっていきますしね。しかも、人間の直感力って侮れないんですよ」
「直感力。なんか一時期、注目されてたよね。あれって、なんでなの?」
まりんは、「よくぞ聞いてくれました!」とでも言うように、少し身体を前のめりにして話し出した。
「実は、最初の2秒でなんとなく持った感覚の方が、意識して考えるよりも一瞬で、膨大なデータを処理出来ているって言われているんです」
「えっ?なんで?」
「脳の話しになるんですが、私たちの脳内では何かを経験すると神経細胞が興奮して、そこに情報が刻み込まれます。同じ情報が何度も神経細胞に送られると、興奮した神経細胞同士に繫がりが生まれて、更に何度も繰り返し神経細胞に刺激を与え続けると、情報の伝達は速くなっていくんです。その結果、必要な情報を全て引き出さなくても瞬時に判断が下せるようになるのが、直感力だと言われてます」
「そっか。それで、一瞬で膨大なデータを処理出来るっていうことね」
まりんは、ウンウンと強く二回頷いた。
「あとは、きちんと説明出来る根拠はまだ出ていないんですけれど、人間は1秒につき11,000以上感覚器官への刺激を受けているって言われていて、直感というものは祖先の世代を経て積み上がっている経験も機能しているとも言われているんです」
「へー。直感って、確かにすごいんだね」
「良い兆し、じゃないですか?」
嬉しそうに笑ったまりんを見て、夏月さんを思い出した私は、何故だか少し照れた。
薄っすらと、久しぶりに感じる淡い期待感。
この感覚を愛おしく思った。