第3話「ハンバーグ弁当」/ちゃんちゃんCO

ちゃんちゃんCO

前回 第2話「Came back to Tokyo」

第3話「ハンバーグ弁当」

『岡田俊明』
自分の名前を打ち込んで、午前の仕事はタイミング良く終わった。

—美味しいもん食べて、午後また頑張らんと。

窓から秋晴れの心地よさを感じて、今日はお弁当を買って外で⾷べることにした。
和⾷系にするか洋食系にするか脳内で交互に悩みつつ、階段を降りる。
いつも職場の前まで来てくれるお弁当屋さんの列を⽬指して歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、同期の上⽥が右手を上げてニカッとした笑顔を見せた。

「よう。久しぶり」

「あぁ! なんか久しぶり。階が違うと、なかなか会わないもんだな」

⾝長が⾼く、顔立ちもハーフのように⽬鼻立ちが整っている上田は、公務員というよりも外資証券にいそうな風貌である。
思い返すと、関西にいた頃には「気色悪い」と思っていた標準語を上田と出会った頃から⽇常生活の中で積極的につかうようになった。

—上⽥みたいな外⾒やったら…、玲奈さんも…。

頭の中を一瞬過ぎ去った一言に、⾃分でも⾃分に対して呆れてしまった。

「お前って、お昼どうするの?」

胸の内を知らない上田の⼀言に、⼀気に関心がお弁当に戻る。

「外で、お弁当でも⾷べようかと思って。今⽇、割と暖かいし」

15人ほど並んでいる弁当屋を指すと、上田は⼤きく頷いた。

「良いねぇ。俺も、たまには外で⾷べてみようかな」

そのままの流れで、上⽥と 2 ⼈で列に並んだ。
⼿際よくお弁当が渡されていくので、列の進みは早い。

「ハンバーグ弁当1つ」

「あっ、僕も」

結果的に上⽥と2⼈でハンバーグ弁当を購入して、ベンチに座って食べる流れになった。

「それにしても、綺麗な⻘空だなぁ」

ペットボトルのお茶を飲んだ上田は、お弁当をベンチに置くと⽴ち上がって大きく伸びをした。

「まさに、ピクニック⽇和」

濃いデミグラスソースが絡みついたハンバーグを⼝に運びながら、触れる風の心地良さに、いつも以上に特別なランチタイムだと感じた。
座り直した上田は、テキパキとお弁当を開けていく。

「そういえば岡⽥も18⽇にボランティアに参加するって聞いたんだけど…、⾏くの?」

「新賀さんのやつ?」

「そう。⽼人ホームのやつ」

「今のところ参加する予定かな。もしかして、上⽥も誘われたの?」

上田は、モグモグと口を動かしながら頷いた。

「えっ。どういう流れで?」

「岡⽥の⽿に⼊っているかは謎だけど、俺、今⽉から新賀さんと同じ部署になったんだよね」

「そうなんだ。知らなかった」

「まぁ、知らないよな。てか、異動初日に新賀さんに挨拶に⾏って、社会人2年目だと伝えたら岡田の名前が出て、驚いたんだけど。新賀さんと岡田って、絡むことあった?」

「んー」

エレベーターでナンパされた話しをしたら、何となく新賀さんに怒られるような気がして、答えに悩んでしまった。
誤魔化すように、エビフライを食べた。

「もしかして、OB ?」

「まぁ、そんな感じかな」

適当な返事に、上⽥はこっちの⼼情を理解したように顎の下に⼿を当てながら頷いた。

「なるほどね」

「あれ? けど、確か上司と部下とかそういう⼈間じゃない人から意見が聞きたいって理由で頼まれたんだけど…、 上田も⾏くんだね。他にも誰か来るの?」

上田は、首を横に振った。

「新賀さん経由での参加は、俺ら2 ⼈らしいよ。俊明と仲良いか聞かれてさ、普通だって答えたら18⽇空いてるか聞かれた」

「あっ、もしかして僕のせいで上田も巻き添えになっちゃった感じ?」

ポリポリと音を立てながら沢庵を食べた上田は、⾸を横に振った。

「いや、前々から現場を体感しておく必要性は何となく感じていたし、ボランティアにも興味があったんだ。だから、正直ちょうど良い機会だと思った。新賀さんにも、気に入ってもらいたかったし」

「さすがだなぁ。新賀さんといい、仕事振りを⾒習っていかないと…」

つい、自分の仕事に対する姿勢と比べてしまい、気持ちが重くなってしまった。
そんな僕の気持ちの曇り具合に気付いたのか、上田は僕の肩を⼆回叩いた。

「岡田が扱っているのは、雇⽤関係だろ。それなのに、休日を使って他局の事にも興味を持って動けるっていうのは、 大したもんだと思うよ。熱い気持ちがある奴らばかりが働いている訳ではないし、その中で頑張ろうとする意思があるのは岡田の強みだと思う」

「そうかな?」

「世の中、岡田が思っているよりも、大したことのない奴の方が多いよ」

毒を吐いている風には⾒えないような、爽やかな笑顔を上田は見せた。

「すごいな」

「ん?」

「いや、上田は偉大だよ」

キョトンとした表情をした上田は、「ハハッ」と声を出して笑った。

「訳の分からないことを言って! 俺に媚を売っても、何も得はしないぞ。とりあえず18日よろしくな」

立ち上がって右手を差し出してきたのを見て、少し冷えている上田の手と握手した。
頭上に広がる空はどこまでも青く、自分の心の中までもが、⻘く澄み渡っていくように感じた。

第4話「変化」

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

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