第9話「秋の感謝祭」/ちゃんちゃんCO

ちゃんちゃんCO

前回 第8話「最寄駅での偶然」

第9話「秋の感謝祭」

地図アプリから目線を上げると、和子さんが立っているのが見えた。

ーここだ。 想像より、だいぶお洒落…!

和子さんの横にある天使たちが舞うデザインの噴水に、つい目がいってしまう。
清潔感のある佇まいからは『⽼人ホーム』というより、個⼈経営のリゾートホテルのような印象を受けた。
花壇もよく整頓され、紫、黄、⾚とパンジーの花が彩りを加えている。
私に気がついた和子さんは、私に向かって笑顔で手を振ってきた。
手を振り返しながら、私は和子さんに駆け寄った。

「⼊り口で待ち合わせをしておいて良かったです。正直、イメージしていた⽼人ホームと違いすぎて、ここで合っているのか不安になるところでした」

親⼦連れが『秋の感謝祭』と書かれた立て看板を確認しながら、私たちの先を歩いていく。

「ここが、⽼人ホーム?」と、⼩学⽣位の少女も、私と同じような驚きの声を発しているのが聞こえた。

「ふふっ。まぁ、ここは特別よね。私も最初に来た時は、驚いたもの。ここのオーナーはヨーロッパの⽣活が⻑かったみたいで、⽼後の⽣活先として⽼人ホームを選ぶ⼈達に、ヨーロッパに移住してきたような気分を味わってもらうことをコンセプトに作られているの」

「なるほど! だから、こういう作りなんですね」

⾃動ドアをくぐりぬけて、室内に入るとヨーロッパ風であることを感じさせるように、壁にはパリの街並みや、ヨーロッパのどこかのレストランの絵が飾られていた。
天井にはシャンデリア、置いてあるソファーやサイドテーブルも、ヨーロッパ風アンテイーク。
カーブドグラスには、⼊居者の⽅々で撮影したであろう集合写真が飾ってあった。

「この写真の中央に座っているのが、ここのオーナーの加藤さん。ただ、今は娘さんに引き継いでいる段階で、ほぼ娘さんの美希さんがオーナー業を任されているんだけどね」

「笑顔が魅力的な方ですねっ」

「美希さん含め、加藤さん一族って少し⽇本人と違う感覚を持っていて、その独特な余裕感が魅力的なの。この施設は、⼈を癒す⼒があるみたいで、80 歳を過ぎた⼈でも、ここに来てから人⽣観が変わったっていう⼈も結構いるのよ。 人に優しくする事を覚えたと言う人や、何か新しいことに挑戦する⼈もいるの」

「⼈生のありとあらゆる事を経験して、それでも⼈生観が変わったと思える場所に出会えるなんて。素敵ですねっ」

改めて室内を⾒渡して、この⽴派な造りと素敵な空間に、一つ現実的な疑問が湧いた。

「ちょっと気になってしまったんですけど、ここに入居するのって、月々どのくらいかかるものなんですか?」

「気になる?」

和⼦さんのニヤリとした表情を見て、私は覚悟をするようにゴクンと唾を飲んで頷いた。

「年齢も若いし、多分知らないと思うんだけど、⺠間施設に比べて安いと言われている特別養護⽼⼈ホームでも、月額利⽤料金は6万円から15万円と言われているの」

「わぁ…。公的な⽼人ホームでも、そんなにかかるものなんですね」

単⾝世帯の年⾦⽀給額の平均が約10万7千円だと考えると、月々6万円で入居できたとしても、⽣活は厳しいように感じてしまう。

「あれ? けど、特別養護老⼈ホームだと高額介護サービスって適⽤されたりしますか? 確か、特別介護⽼⼈ホームって入会金がかからない代わりに、入居の対象者が要介護度で決まっていたような気がして…」

「若いのに、よく知っているわね! 確かに、特別養護⽼⼈ホームの対象者は65歳以上で要介護3から5の認定を受けている必要があるし、⾼額介護サービスも要介護者の5段階の等級に合わせて所得に合わせた負担上限額の中で、⾃己負担 1割から2割負担で利用できる制度だけど、特別養護⽼人ホームを含めたショートステイでの費⽤は適応外なの」

思わず、「えーっ」と納得の出来ない声を出してしまった。

「⾼齢者の介護期間って、平均して約4年11ヶ⽉と言われているから、例えば5年間特別養護⽼人ホームに月額6万円で⼊居した場合でも360万円。そう考えると⾼額だけど、ここに入居したら入会金含めて、5年間で2500万円くらいかかるの」

「わっ。そんなに!」

良い施設だな、とは思っていたものの、5 年間で都内のワンルームタイプのマンション1部屋を購入出来る額が消えていく事実に素直に驚いてしまった。

「でもね、ここが別に特別高いっていう訳ではないのよ。ここは60歳以上であれば基本的に誰でも⼊居ができて、施設外部の介護サービスを利用して介護を受けるタイプの住宅型有料⽼人ホームっていう分類なんだけど、都内の住宅型有料⽼人ホームの⾼価格帯のところだと入居時費用で5000万円かかるところとかもあるし…。立地、設備、サービスを考えると、ここはまだ良い⽅だと思うわ」

「⽼人ホームの相場感とか知らなかったので、すごく勉強になります」

向かいから、肩に掛かるくらいの銀髪とパールのイヤリングが似合う女性が「和⼦さん、来て下さったのー!」 と⾔いながら、和⼦さんに向かって手を振って近づいてきた。

「あら!もしかして、この⼦が例の…まりんちゃん?」

私を見て、嬉しそうな顔をした⼥性につられて、私も笑顔になった。

「初めましてっ。南⼭まりんと申します。和子さんにお誘い頂いたお陰で、こんなに素敵な⽼人ホームに訪問できて嬉しいです」

「まりんちゃん、よろしくお願いします。私のことは、聖子って呼んでね。ここで、ボランティア長をやらせて頂いてます。ボランティアに興味が出た時は、いつでも⼤歓迎だから私に声を掛けてね」

「聖⼦さんは、私よりも老人ホームについて詳しいから、⾊々と聞くと良いと思うわ」

「ん? まりんちゃんは、老人ホームに興味があるの?」

物珍しそうな顔をして私の瞳を見てきた聖子さんを前にして、私は軽く腕を組んだ状態で首を傾げた。

「正直、自分の老後がボンヤリしすぎてしまっているので、老後の資金作りで資産運用とかを取り入れてみても、自分が正しいことをしているのか自信がなくて…。和子さんから今回のお誘いを受けてから、自分の中でもう少し老後の生活について具体的なイメージが湧くと良いなぁ、って考えていたので、さっき和子さんに色々と質問をしてしまいましたっ」

「あら。そうだったの。老後のお金周りの話しねぇ…」

落ち着いた声を出しながら、和子さんは聖子さんと目配せをした。
その後、聖⼦さんの活き活きとした目がパッと輝いたかと思うと、パチンと聖子さんは両手を可愛らしく叩いた。

「和子さん、まりんちゃんを今度のセミナーに呼んであげなさいよっ。興味を持ってくれる若者が2人もいるなんて。今は老人ホーム内で、シニア層向けのセミナーだけど、今後は若者向けに展開できるかもしれないわ」

「えっ。なんのセミナーなんですか?」

聖子さんが指した先には、「入居者向け、お金セミナー」と書かれたポスターが貼ってあった。

「本当は、老人ホーム内限定なんだけど、ボランティアにきてくれた若い男の子も興味を示してきたから、特別にお2人をご招待するわ。ちなみに、次回の講師は和子さんがやるのよ」

思わず目を見開いた状態で和子さんを見ると、和子さんは目を線にして笑いながら「そんな、大したことじゃないから。期待しないで」と言った。

「もう1人セミナー参加予定の男の子、中庭にいるから是非話してみて。年齡も近いと思うから、仲良くなれるんじゃないかしら! 私もご一緒出来たらよかったんだけど、これから⽊村さんと3階の会議室でやっている俳句を詠むイベントに参加する約束があるから、ここで失礼するわね」

「俳句も良いわね。楽しんでいらして」

笑顔で手を振りながら⼩走りで去っていく聖子さんに、私も笑顔で⼩さく頭を下げた。

第10話「はじめてのボランティア」

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

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