【Z世代のマネー学】FIREの種類とFIREの考え方

FIREの種類とFIREの考え方
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フルFIREの達成が日本では適していない3つの理由

FIREと言うと「フルFIRE」を想像する人が多いと思いますが、このフルFIREは日本では適していないと言えます。

フルFIREを目指す場合、年間の生活費が300万円であれば、300万円÷4%=「7500万円」の資産を準備することになります。こちらは4%ルールを元にして導かれるFIRE資産額です。

4%ルールは「生活費を投資元本の4%以内に抑えられれば、資産が目減りすることなく暮らしていける」というルールで、トリニティ米国の大学の論文(トリニティスタディ)を根拠にしています。言い換えると、FIREするために必要な資産は「投資元本(100%)÷年間支出(4%)」と計算できます。

フルFIREの達成が日本では適していない理由は3つあります。

理由のひとつは、実現に向けてかなり激しい節約を求められるということ。

25歳の人が45歳までに7500万円をつくるには、年利4%で運用したとしても月約20万円の投資が必要です。

これを達成するには激しい節約と同時に貯蓄したお金を預貯金に回さず、全額投資に回していかなければなりません。また、若いうちだからこそできる趣味や楽しみ、スキルアップのための自己投資まで犠牲にしながらFIREを目指すことに価値があるのかです。

さらに勘違いしてはならないのが、年間の生活費300万円というのは、豊かな生活ができるわけではありません。FIREした後も節約生活が続くことに留意が必要です。

2つ目の理由は、FIREを目指している間と実現後も、安定した利率で運用し続けられる保証がないからです。そもそも、「年4%」という運用利率はかなり高い目標です。

直近ではコロナショックやウクライナショックにより、暴落しています。ウクライナショックは本稿執筆時点で現在進行形であり、平和的解決が成されてもマーケットが戻る保証はありません。ウクライナ侵攻はあくまでもきっかけに過ぎず、世界的な景気後退に入った可能性も考えられます。年4%以上を目指すというのは相応の資産運用リスクをとっているということです。

3つ目の理由は、早期リタイアをすることにより将来の年金が減るからです。会社員や公務員を辞めると、厚生年金から国民年金に移行することになり、年金額が減ることも忘れてはいけません。

例えば、23歳から65歳まで厚生年金に加入し、その間の平均年収が400万円である場合、65歳からもらえる年金額はおよそ年174万円です。仮に40歳で早期リタイアした場合、65歳からもらえる年金額は年118万円となり、56万円少なくなります。

年金は受給開始をして、受給額が確定したら一生涯受け取れます。マーケットの影響は受けません。老後の年金が少なくなれば、資産運用の収入はもちろん、資産運用に頼る時期が長くなります。つまり、資産運用のリスクを取り続けるということです。

日本の年金制度は米国など海外と比べてかなり充実しているのに、それを軽んじて早期リタイアを優先するのか、考える必要があります。

「サイドFIRE」なら再現性が高く、暴落時にも柔軟に対応できる

FIREを実現するためには資産を減らさないことが必要です。

これがサイドFIREであれば、「勤労収入+資産運用収入」になりますので、仮に勤労収入が月15万円、資産運用収入が月10万円とすれば、サイドFIRE資産は120万円÷4%=3000万円を準備すればOKということになります。

4%ルールの「4%」はあくまで米国株式市場と米国のインフレ率の過去データを基にした数字ですので、前述の通り、4%で運用が続けられるという保証はありません。

フルFIREの場合、年4%の運用ができなければ、不労所得が減ります。この場合は、支出を削るか、FIRE資産以外の預貯金があればそれを取り崩すという対応が必要です。それができない場合は、資産を取り崩すことになります。資産を取り崩すことになれば、FIREの継続が難しくなります。

サイドFIREであれば、勤労収入を増やすという選択肢もありますので、資産取り崩しのリスクを減らすことができます。

経済的自立(FI)を確立することで人生の選択肢の幅を広げる

そもそも、仕事が充実している人はFIREを目指す必要がありません。

そして、会社の人間関係にストレスを抱えているのなら転職すればいいわけですし、上司の指示で働くのが嫌なら個人事業主や起業して働くことも考えられます……などと言うと、随分突き放した言い方に聞こえる方もいると思いますが、そうではありません。

もちろん、組織から離れて10万円稼ぐのは大変なことです。でも、経済的自立ができていれば、その月10万円の勤労収入でも生活はできます。当初はご飯を食べるだけで精一杯だけど、勤労収入以外の収入があり経済面で余裕があれば、やりたい仕事に取り組めることで収入がアップしたり、身についたスキルで就職してステップアップできたりすることも可能になります。

ここでお伝えしたいのは、仕事がつらいとばかり考えて早期リタイア(RE)を目指すのではなく、まず経済的自立(FI)を確立することで人生の選択肢の幅を広げてみてほしい、ということです。

サイドFIREでは、早期リタイアではなく、セミリタイアを目指すわけですが、単に「短時間だけ仕事する」「ゆったり仕事する」という考え方ではなく、「働き方の選択肢を増やし、やりたい仕事を過大な負担なく取り組む」と捉えたいと思います。

将来子どもが生まれた時に、親として見せる「生き方」の問題もあります。親として、仕事が嫌で辞めたという姿を見せることになるわけです。

労働が嫌という意見はわかりますが、労働で得る対価、社会でどのような人がどのように働き、収益が上がるのか、そうしたことを子どもに伝えずによいのか、一度考えてみてもらいたいと思います。

仕事をしてお金をもらうということは、お金を喜んで払う人がいます。お金の向こうには人がいます。仕事をネガティブなものではなく、ポジティブなものとして捉えることが大切だと思います。

FIREとは、人生を豊かに過ごすための生き方です。どのような暮らしをしたいのかよく考えて選択することが、結果的に豊かな暮らしにつながります。

頼藤 太希

(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント 中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。...

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