4章第10話:「3ページ先」/恋する3センチヒール
何のために資産運用をするのか、やっと気づくことができた俊明。
俊明は玲奈に想いを告げることができるのか!!
前回 4章第9話:「エンゲージリング」
4章第10話「3ページ先」
「この前の紗愛子さん、幸せそうでしたね」
式から二週間後。
季節は、すっかり夏だった。
知人が新しいBARをオーナーとしてオープンするとのことで、俊明くんに誘われて2人で行くことになった。
「ね、大介さんも、幸せそうだったなぁ。ほんと、素敵だった」
食事は乾きものしか用意されていないということで、一軒目にイタリアンレストランで食事をした後、赤羽橋駅からBARに向かって2人で歩いた。
仕事終わりの金曜日の夜。
時間は22時を過ぎていた。
「そういえば、玲奈さんにとって良い投資先を見つけたんです」
そう言って、人通りの少ない道の端に俊明くんは歩いて行った。
東京タワーが大きく見える道の端。
「ちょっと待って下さい。今、資料をお見せします」
「えっ?今?」
「思い出した時に見せないと、忘れちゃってもいけないので」
そう言って俊明くんは、鞄から見覚えのある水色のノートを出した。
「あー!懐かしい。ポートフォリオが書いてあるやつ」
俊明くんはニコッと笑って、ノートを手渡してきた。
「なになに…?」
開くと、見覚えのあるページが出てきた。
「その3ページ先です」
見慣れたページから先のページへ。
一面白紙のページの次のページをそっと開いた。
【好きです】
飛び込んできた一言に顔を上げると、俊明くんと目が合った。
「僕は、玲奈さんのことが1人の女性として好きです。きっと今まで寂しい夜もありましたよね?これからは僕がいます。2年前から、想いは何も変わってないです。玲奈さんの人生の投資先、僕じゃダメですか?」
真っ赤な顔をしながら、それでも真っ直ぐに目を見つめて言葉を伝える俊明くん。
愛しさが込み上げた。
伸ばそうとした手と、つま先立ちをしようとした足にグッと力を入れた。
「どうしよっかなー・・・」
突然の出来事に、心臓は激しく脈を打っていた。
「お願いします。けれど、僕のことを良いと思えないのであれば、断って下さい。けれど、そうじゃなければ、僕に玲奈さんの人生を任せて下さい。幸せにします!」
頭を深々と下げてきた俊明くんの頭にツンツンと2回触れた。
答えは、最初から決まっていた。
「こんな私で良ければ、宜しくお願いします」
「えっ!ほんまに!?」
喜ぶ俊明くんの顔を両手で包み込んで、3センチヒールでは足りない分を背伸びした。
東京タワーが霞んで見えた、特別な夜。
愛を育むため、お金を運用するため、私達は価値あるものを選択し、そこに時間を費やす。
そして静かに、けれども確実に地球はまわり、私達は生きて、死んでいく。
2人で手を繋いで歩く街は、いつもよりも鮮やかな色をしていた。
「お父様以外といらっしゃるなんて、珍しいですね。彼女さんですか?」
俊明くんの知り合いのオーナーさんの一言に、顔を見合わせて微笑んだ。
「彼女じゃなくて、未来の家族です」
カウンターの下、ギュッと手を握った。
-完-
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