NISAやiDeCo、亡くなったらどうなる?
税制優遇を受けながら資産形成・資産運用ができる制度に、NISA(ニーサ・少額投資非課税制度)とiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)があります。NISAもiDeCoも、投資で得られた利益にかかる20.315%の税金を非課税にできます。また、iDeCoでは掛金が全額所得控除できて、所得税や住民税の負担を減らせるメリットもあります。
ただ、NISAやiDeCoの運用期間は長期に及びます。NISAやiDeCoを使って運用をしていた方が、資産を残したまま亡くなってしまうこともないとはいえません。この場合、NISAやiDeCoの資産はどうなってしまうのでしょうか。今回は、亡くなった方のNISAやiDeCoの資産がどうなるのか、解説します。
NISAの資産は「課税口座」で引き継ぐことに
ある人が亡くなったとき、その人の財産を引き継ぐことを相続といいます。亡くなった人を「被相続人」、被相続人の財産を引き継ぐ人を「相続人」といいます。相続の対象になる財産には、現金や預金といったお金、土地や建物といった不動産、株式や債券といった有価証券があります。
NISAの投資対象になる株式や投資信託も、相続の対象になる財産です。したがって、被相続人が持っているNISA口座にある株式や投資信託も相続人に引き継ぎ(移管)を行います。
NISA口座を開設している方が亡くなった場合、相続人は亡くなったことを知った日以後遅滞なく、金融機関へ「非課税口座開設者死亡届出書」を提出する必要があります。この書類は、被相続人が利用していた金融機関から取り寄せて提出します。金融機関と相続人の間での相続手続きが完了したら、資産が引き継がれます。
ただし、被相続人のNISA口座の資産を、相続人が持っているNISA口座に引き継ぐことはできません。被相続人のNISA口座の資産は、相続人の課税口座(特定口座または一般口座)で引き継ぎます。
たとえば、亡くなった親(被相続人)がNISA口座で400万円の資産を持っていたとします。この資産を子ども(相続人)が引き継ぐ場合、たとえ子どもがNISA口座を持っていたとしても、NISA口座で引き継ぐことはできません。課税口座(特定口座または一般口座)で引き継ぎます。
なお、NISA口座の資産を引き継ぐ課税口座は、被相続人の利用していた金融機関のものでなければなりません。たとえば、被相続人がNISA口座を楽天証券に開設していた場合は、相続人も楽天証券の課税口座を用意して、そこに引き継ぐ必要があるというわけです。この場合、相続人が楽天証券の口座を持っていないのであれば、まずは楽天証券に口座開設してから資産を引き継ぐことになります。
参考:国税庁「NISA(少額投資非課税制度)の手続に関するQ&A」
これまでのNISA口座の利益には税金はかからないが、損失は「なかったもの」に
「NISA口座の資産を課税口座で引き継ぐと、これまでの利益に税金がかかってしまうのではないか」と心配になる方もいるかもしれませんが、それはありません。NISA口座の資産は、被相続人が亡くなった日の終値に相当する金額で相続人が取得したものとみなされるからです。
たとえば、親がNISA口座で300万円投資し、値上がりして資産の合計が400万円になったとします。現状、100万円の含み益がある状態ですが、この400万円の資産を課税口座で相続すると、新たに「400万円で取得した」とみなされます。つまり、NISA口座での利益については、非課税になります。なおこの後、仮にこの課税口座で運用を続けてもう100万円増やし、資産が500万円になったら、増やした100万円に対しては課税されます。
ただ、NISA口座の資産が値下がりして、損失を抱えていた場合にも、取得価格は変わってきます。たとえば、親がNISA口座で300万円投資し、値下がりして資産の合計が200万円になっていた(100万円の含み損がある)とします。このとき、親のNISA口座の資産を子どもが課税口座で相続すると、新たに「200万円で取得した」とみなします。仮にこの課税口座で運用を続け、100万円増やした(300万円になった)場合、トータルで見ればようやくプラスマイナスゼロになったところですが、課税口座で増えた100万円に対しては課税されてしまうのです。
NISA口座の損失は、複数の口座で生まれた利益と損失を合算して税金を計算する「損益通算」や、損益通算しても損失があるときに最大3年間損失を繰り越して、翌年の利益から差し引くことができる「繰越控除」の対象外です。したがって、NISA口座の損失はなかったものとなってしまうのです。
NISA口座の資産の損失は、あくまで親の損失であって、子どもの損失ではないと考えることもできますが、NISA口座の資産が値下がりしているならば押さえておきたいポイントです。
また、被相続人が亡くなった日以降に支払われた配当金などは、NISAの非課税が適用されず、課税対象になることも押さえておきましょう。
NISAの資産は相続税の対象になる
NISA口座の含み益については、引き継いでも非課税になるのですが、引き継ぐ資産は相続税の課税対象になることにも注意が必要です。
相続税には「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除があります。しかし、NISA口座から引き継ぐ資産とその他の相続する資産の合計額が基礎控除額を超えた場合、その資産額に応じて相続税が発生します。
相続税の税率は基礎控除額を超えた金額が1,000万円以下の場合10%。引き継ぐ資産額が増えると相続税の税率は段階的に上昇します。
【相続税の速算表】
国税庁ウェブサイトをもとに(株)Money&You作成
たとえば、親のNISA口座の資産が400万円、その他の相続する資産の合計額が3,600万円(合計4,000万円)を子1人で相続した場合、4,000万円から基礎控除の3,600万円を引いた400万円が相続税の課税対象に。その10%、40万円が相続税としてかかることになります。