雇用保険料2.7倍で給料が減る?コロナで危機を迎える雇用保険制度
給料を月に20万円もらっている人一般の事業なら、従業員負担の保険料は600円です。
会社負担の保険料は、失業等給付分が600円と雇用保険二事業分600円を合わせて1200円になります。
保険料率については毎年見直しがあるため、年度によって納める保険料が変わります。
【令和3年度 一般事業の場合】
失業等給付
従業員分 20万円×0.3%=600円
事業主分 20万円×0.3%=600円
雇用保険二事業
事業主負担 20万円×0.3%=600円
(事業主負担の合計1200円)
納められた保険料は、失業等給付と雇用保険二事業とは別々に積み立てられ、管理されています。
厚生労働省HPから引用
「雇用調整助成金」「休業支援金・給付金」とは
日本は世界的にも解雇が文化的にむずかしい国であり、景気が悪くなったからといって簡単に従業員を解雇することはできません。
少子高齢化が進み、人手不足が深刻になるなか不景気だからと従業員を解雇すれば、景気がよくなったときに新たに採用できるとは限りません。
そこで一時的なコロナ禍の間は、従業員を解雇せずにどうにか持ちこたえたいと多くの企業は考えています。
雇用保険二事業には雇用安定事業があり、コロナウイルス感染症の影響を受けて困っている企業をサポートし、雇用を守る手助けを国がします。
雇用安定事業に「雇用調整助成金」と「休業支援金・給付金」があります。
「雇用調整助成金」とは、景気の後退や経済上の理由によって事業の縮小を余儀なくされ、雇用の調整を行わざるを得ない事業主が、労働者に対して休業等を行い、労働者の雇用を維持した場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。
また「休業支援金・給付金」は、休業させられた労働者のうち、休業手当の支払いを受けることができなかった人に対し、労働者の申請により、休業支援金・給付金を支給するものです。
そこでコロナ禍の影響を大きく受けた企業は、「雇用調整助成金」を申請し、利用するケースが目立ちました。
当初は中小企業向けと思われた雇用調整助成金ですが、東京商工リサーチの調べ※1によると、交通や観光を中心に上場企業のうち703社が決算に計上したか申請を行っており、上場企業全体の約2割が雇用調整助成金を利用していることがわかりました。
計上額の合計は3633億円に達しています。
また労働政策研究・研修機構「国際比較統計:雇用維持制度申請状況」※2によれば、申請件数は2021年3月末までに雇用調整助成金が307万8648件、休業支援金・給付金が152万1975件になっています。
厚生労働省の発表によれば、支給決定額については、
雇用調整助成金※3
3月末までの累計で3兆1555億円
4月末までの累計で3兆3686億円
休業支援金・給付金※4
3月末までの累計で902億9789万円
4月末までの累計で1026億3783万円
と大きな額になっています。
雇用調整助成金にしても休業支援金・給付金にしても、申請件数や支給決定額が日を追うごとに増えており、ワクチン接種がある程度まで進まない限り、景気や雇用に与えるダメージは小さくならないように思えます。
雇用調整助成金および休業支援金・給付金申請件数(日本)
出典:労働政策研究・研修機構「新型コロナウイルス感染症関連情報:新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響、国際比較統計:雇用維持制度申告状況」
※1:東京商工リサーチ「第5回上場企業「雇用調整助成金」調査」、※2:労働政策研究・研修機構「国際比較統計:雇用維持制度申請状況」、※3:厚生労働省「雇用調整助成金」、※4:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」
コロナが理由で雇用保険制度が危機に直面
これまでの雇用保険の積立金の推移を失業等給付と雇用算定資金分けて見ていきましょう。
まず失業等給付の積立金です。
失業手当は、受給者が多い年度には積立金が減少するため、料率が上がる傾向にあります。
しかし、景気がよくなると積立金も増えるため、平成27年度は積立額が過去最高額になっています。雇用保険の料率は、景気の動向や積立金の状況に応じて、その年度で料率が変わります。
その積立金も令和2年度はコロナ禍が理由で、急激に積立金残高が減少しているのがわかります。
個人がどんなに努力しても、会社の倒産や清算が増えて景気が悪くなれば、就職することができずに失業手当の給付に頼るしかありません。
失業手当の給付は、2021年1月には受給者が約53.5万人で、前年より3割増えています※5。
今後さらに雇用情勢が悪化した場合には、失業手当の給付や国の就業支援事業にも影響が出るのではないかと懸念されています。
厚生労働省HPから引用
次に雇用安定資金の残高については、コロナ禍で会社から仕事を休まされた従業員が増えたことで、一気に財源が枯渇することになってしまいました。
2021年は緊急事態宣言の再発令によって、さらに膨らむことが予想されます。
新型コロナウイルスが未知のものであるがゆえに、どの程度の期間で収束するのか、ウイルスの感染力の程度などは予想ができないため、国は最初の段階ではリーマンショック並みの支給額くらいだろうと想定していました。
しかし、コロナ禍の損失は想像をはるかに超えていたのです。
雇用調整助成金の支給決定額は、リーマンショック後の6534億円※6と比較すると、2021年5月14日まででは3兆4611億と5倍以上※7に膨れ上がってしまいました。
そこで、雇用調整助成金を支給するためには、前年までの積立金と保険料収入だけでは財源が足りず、当面は失業等給付の積立金から借入れたり、特例で国庫負担を約1兆1000億円行ったりするなどの対応で乗り切りましたが、今後も雇用調整助成金の申請が続くとなると、財源の確保をどうしていくのかが大きな課題になってきます。
厚生労働省のHPから引用
※5:労働政策研究・研修機構「新型コロナウイルス感染症関連情報:新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響、国内統計:雇用保険:受給資格決定件数、受給者実人員」
※6:厚生労働省「雇用調整助成金等支給決定状況平成20年度~平成25年度【速報値】」、※7:厚生労働省「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)支給実績」