バイデン大統領誕生でアメリカは「前のアメリカ」に戻る?

バイデン大統領誕生でアメリカは「前のアメリカ」に戻る?
マネーケア

米国第一主義(アメリカファースト)と中国の関係

トランプ政権では、「米国第一主義(アメリカファースト)」を掲げています。これは1対1の取引が基本で、2国間の交渉でアメリカの国益を確保したいという考え方が根底にあります。特に中国との関係では、直接交渉によって中国に圧力をかけ、アメリカの利益を勝ち取ろうとしました。高い関税をかけて自国の産業を守り、中国製品の輸入に歯止めをかけるという政策です。保護主義的な貿易政策だといえます。

「米国第一主義(アメリカファースト)」の影響は、対中国との関係※4に色濃く表れています。中国を「大国間競争」の競合国と位置づけています。そのため、政治や経済、軍事関係などあらゆる分野でアメリカが優位になるよう、激しく対立する構図ができてしまいました。

トランプ大統領は、2018年に中国に対して「貿易戦争」をしかけてきました。アメリカが中国製品に25%の追加関税を課すというものです。その後お互いの国の製品に、次々に追加関税をかけるという報復合戦に発展してしまいます。これはハイテク分野で追い上げてくる中国への対抗策でもあります。

もともと中国の劇的な経済成長は、東西冷戦後の改革開放政策の推進によって、アメリカに輸出を拡大することで達成されたものです。しかし、最初は工業品や農産物であったものがハイテク技術へと変化してきました。そのうちサイバー戦争でもアメリカへの攻撃を始めました。このアメリカと中国との対立は「新冷戦」とも呼ばれ、だんだんと関係が悪化しています。
※4:https://diamond.jp/articles/-/253042?page=3

バイデン政権の誕生と今後の課題

大統領選挙の後もトランプ氏は敗北宣言をしないなど、政権移行に協力的ではありません。この敗北宣言は国民を2分して選挙で闘い、勝っても負けても残るお互いの心の傷をいやし、ともに前進するための大切な役割を果たしています。敗北宣言は、アメリカの民主主義を象徴する慣習といえます。

バイデン氏は、オバマ政権時の副大統領であり、同盟国や友好国と連携する国際協調へと政策を転換しようとしています。演説の中でもバイデン氏は「分断でなく団結」を目指すと語っています。

外交面では、トランプ政権時に離脱したパリ合意に、大統領就任の1月20日に復帰すると表明しており、イラン核合意や世界保健機構(WHO)との関係を修復し、復帰する考えを明らかにしました。

アメリカ国内の政策としては、新型コロナウイルス対策を最優先課題とし、経済では国内の環境インフラを整備し、製造業の復興で雇用創出を狙いたい考えです。クリーンエネルギーによる持続可能な経済の実現、人権問題、環境問題にも力を注ぐとしています。

またバイデン氏は、結束、多様性、可能性、品格の4つの理念を示しています。女性で初の副大統領にカマラ・ハリス氏を起用するのをはじめ、政府閣僚や要職には、女性や少数人種を起用し、多様性を重視した人事となっています。

さらに主要閣僚には、オバマ政権で実務経験が豊富な人物を指名するなど、政権移行への足固めを行っています。財務長官にはFRB(米連邦準備理事会)の前議長のイエレン氏を起用し、財政面と金融面の連携でアメリカの景気を失速させるのを防ぐ狙いがあります。

これからインフラ投資でアメリカの経済が拡大基調になれば、タイムラグはあっても日本経済にプラスに働くとの見通し※5もあります。

今回のバイデン政権の誕生は、アメリカの分断を修復し、国際社会の信頼を取り戻したいと強く願うものです。一度壊れた関係を元に戻すことは、容易ではありません。しかし、バイデン氏の豊富な外交経験を活かし、アメリカの信頼を回復すれば協調的な世界的な枠組みを再構築することができると思います。

ただし、バイデン政権で米国第一主義(アメリカファースト)の姿勢が変わるかというと、簡単にはいかないでしょう。
理由は、大統領選挙において、トランプ氏は前回を上回る得票数を獲得しており、アメリカファーストの訴えは支持者に響きました。トランプ・エフェクトと呼ばれ、その空気はアメリカ全体に広がっています。また、上院選挙で共和党が多数派になれば、ねじれ状態となり、公約が計画通りに進まない可能性もあります。

さらに中国との関係は厳しい姿勢が続き、バイデン政権になっても自国の優位性と国益の確保は変わらないとの見方がされています。これからのアメリカは同盟国との信頼回復によって、2国間ではなく集団として交渉していくのではないかと考えられます。
※5:https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20201112_021889.html

池田 幸代

株式会社ブリエ 代表取締役 証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不...

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