2章第3話:「コースターと算式」/恋する3センチヒール
おしゃれなラウンジバーで出た話題に興味を持つ玲奈。
そんな玲奈に対して大介は・・・
前回 2章第2話:「シャンパンと彼女」
2章第3話「コースターと算式」
「大介さんって、なんで株を始めたんですか?」
ナッツをつまんだ大介さんは、考えるように机の上に手を組んで上を向いた。
「なんで…って、なんでだろうなぁ。まぁ、周りにやっている奴が多くて、身近だったからかな。あと、現金をそのまま現金として持っていることが、勿体ない事だと思ったからかも」
「なんで、そう思ったんですか?」
私も、ナッツをつまんだ。
カシューナッツと、大介さんセレクトの赤ワインの渋みが程よく合う。
「玲奈、72の法則って知ってる?」
「72の法則?」
首を傾げた私をみて、大介さんは軽く笑みを浮かべた。
「そっか、知らないか」
「教えてくださいっ」
大介さんは、背広の内ポケットからペンを取り出すと、コースターの上に何かを書き始めた。
【72÷金利≒お金が2倍になる期間】
「つまりこの算式で、お金を銀行に預けてから倍になるまでの期間が分かるって訳。例えば、今は定期預金の金利が良いところにお金を預金したとして、金利0.35%。100万円が200万円になるまで、どのくらいかかるでしょう?」
「わっ。電卓使っても大丈夫ですか?」
「いいよ」
携帯電話の電卓で、私は計算を始めた。
「えっ?2万年も?」
「いや、計算の仕方が違うなぁ。72を0.35で割ってみ?」
「あ、約206年です」
大介さんは、グットサインを出した。
「じゃあ、金利1.2%だったら?」
「60年です!」
コースターに、大介さんが金利0.35%と1.2%の場合の倍に増えるまでの年数を書き足した。
「ちなみに、この金利1.2%っていうのは、1996年の郵政民営化前の定期の郵便貯金の利率ね」
206年と60年。私は数字を交互に見た後、率直な意見を言った。
「小さかった頃は、とりあえずお金は預金しておきなさいって親に言われていましたが、これじゃあ預金していても、お金増えないですね」
「大正解!それも、株を始めた理由の一つ」
よしよしと、頭を撫でられた。
大介さんの手首から、香水の良い匂いがした。