アメリカの利上げでなぜ円安が進んだ?米国の金融政策を担う「FRB」「FOMC」とは

アメリカの利上げでなぜ円安が進んだ?米国の金融政策を担う「FRB」「FOMC」とは
マネーケア

最近ニュースや新聞などで「FRB」の記事を目にすることが多くなりました。米国の金融組織だという認識はあっても、詳しい仕組みまでは理解が今一歩という人も多いはず。しかし、FRB(連邦準備制度理事会)議長の発言一つで、世界の株価が大きく動くとなれば、自分の投資行動にも影響してきます。

今回は、日本と米国の金融組織の比較をとおして、利上げが与える影響を考えていきましょう。

米国の中央銀行にあたる組織とは

FRB(連邦準備制度理事会)は、日本の中央銀行である「日本銀行(日銀)」にあたる組織です。ただし、米国は連邦制をとっていて州の権限が強いため、地方にも配慮した形の中央銀行制度になっていて、日本の制度とは異なり、地方分権型をとっています。FRB(連邦準備制度理事会)という中心的な機関が、12の地区連邦準備銀行を統括し、金融政策の決定をFOMC(連邦公開市場委員会)で行うシステムになっています。これは米国全土では中央と地方との差が大きく、中央に権力の集中を避けるためだといわれています。

FOMCは、日銀でいうところの「金融政策決定会合」に相当します。

上記のように米国の中央銀行の中心的な機関はFRB(連邦準備制度理事会)ですが、FRBと12の地区連銀、FOMCを合わせた大きな枠組みで中央銀行制度をとらえる場合には、「連邦準備制度(Federal Reserve System)」が中央銀行だといわれることもあります。FED(フェド)と略称で呼ばれています。

FRB(連邦準備制度理事会)は、議長と副議長を含めて7名で構成されています。大統領の指名と上院の承認が必要で、上院の承認のハードルがかなり高いため、現在のところ6名で、1名の欠員が生じています(2022年4月1日現在)。

FRB(連邦準備制度理事会)は、「物価の安定化」「適切な長期金利水準の維持」のほか「雇用の最大化」を目的に掲げています。そのためFED(連邦準備制度)の最高意思決定機関として、金融政策の実施を行っています。その他には金融システムの維持、金融・経済に関する調査、地区連銀や金融機関の監督、金融に関する消費者保護などを主な内容としています。

一方、日本銀行は政策委員会と日本銀行の本店、32の支店と14の事務所、7の海外駐在員事務所で構成されおり、中央集権型の組織になっています。中央銀行としての設立は、米国の1913年より早い1882年です。テレビや新聞でも、政策委員会の黒田日銀総裁の顔はおなじみですね。

日銀が掲げる目的は、「物価の安定」「金融システムの安定」です。その目的を達成するために、主な業務として、金融政策の運営や金融システムの安定に向けた取り組みのほか、お札の発行や流通管理、決済に関するサービスの提供、国庫金の出納などの事務の取り扱い、国際業務などを行っています。日銀の業務内容は、ちょうど米国の地区連銀とFRB(連邦準備制度理事会)を合わせた内容になっています。

日本と米国の中央銀行の違い

(株)Money&You作成

FOMC(連邦公開市場委員会)はどんな会合なのか

米国のFOMC(連邦公開市場委員会)は、日銀でいうところの「金融政策決定会合」に相当します。

FOMC(連邦公開市場委員会)の定員は、12名で、構成メンバーは、FRBの議長が委員長で、ニューヨーク連銀の総裁が副委員長を務めます。地区連銀の総裁がFOMCのメンバーに含まれているのが特徴です。

FOMC(連邦公開市場委員会)は、年に8回、2日間にわたって開催されます。毎回、そこで話し合われた景気の判断と政策金利の方針が発表されます。FOMCでの内容は、米東部時間14時に声明文が公開され、約3週間後に議事録が公表されます。この議事録は、それぞれの理事の意見や多数決の人数配分などが公表されるため、次回の委員会の予想となり関心がもたれています。

日銀の会合には、金融政策に関する事項を決定する「金融政策決定会合」と「通常会合」の2つがあります。日本銀行の最高意思決定機関は、政策委員会です。政策委員会は、総裁、副総裁(2人)、審議委員(6人)で構成されています。このうち金融政策決定会合は、米国と同じように年8回、2日間の日程で行われます。金融政策決定会合の内容は、会合終了後ただちに公表されます。また会合で議決・報告された内容は、日銀の政策委員会月報のページでも見ることができます。

金融政策は景気・物価・為替にどのような影響を及ぼすのか

米国のFOMCにおいても、日銀の金融政策決定会合においても、金融政策についてどのようなスタンスをとるかに注目が集まります。金融政策には、「利上げ」と「利下げ」があります。金利とは、お金の賃借料のことです。このお金の貸し借りの利子の元本に対する割合が金利になります。この金利のさじ加減が、経済に大きな影響を与えるのです。

利上げは、銀行が企業や個人にお金を貸し出す場合に、金利を引き上げることです。利上げによって、企業や個人はお金を借りにくくなります。そうすると経済活動が抑制されて、景気の過熱が抑えられることになります。高くなっていた物価に対して、押し下げる力が働き、物価の安定につながります。そこで、景気の過熱を抑えるための金融政策を「金融引き締め」といいます。

一方、利下げは、銀行が企業や個人への貸し出しにおいて、金利を引き下げることをいいます。企業が社債を発行する場合には、その社債の金利も低くできるため、直接資金を調達する金利も下がります。利下げによって、企業の運転資金や設備資金を調達するコストが小さくなり、個人は住宅購入資金が借りやすくなります。このように、経済活動が活発になることで、景気を上向かせたり、物価を押し上げたりすることになります。景気を上向かせるために行う利下げの政策は、「金融緩和」と呼ばれます。

さらに実際に利上げや利下げなどの金融政策が行われる前であっても、FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の発言や黒田日銀総裁の発言は、世界の金融市場に大きく影響を与えています。

たとえば過去を振り返ると、2022年1月26日のFOMCの声明文で「まもなく政策金利を引き上げるのが適切で、3月会合で利上げに適切な条件が整う」とパウエル議長が会見で3月の利上げを示唆しました。26日の米国株式市場では、朝方NYダウは高く始まったものの、政策の先行きが読みにくい発言だったために、午後から下落する展開になりました。この発言を受けて翌27日の日本市場では、日経平均株価が前日比900円安近くまで下げています。

また、2022年3月16日に政策金利を0.25%引き上げることを決めました。パウエル議長は、コロナ禍からの景気回復と米経済の力強さ、高いインフレ率を理由に、ウクライナ侵攻の情勢が不透明な中、利上げに踏み切ったことを発表しました。これに追随して、欧州中央銀行や英イングランド銀行も政策金利を引き上げる動きに出ました。

一方、日銀は18日の金融政策決定会合で、「賃金の上昇や消費が伴っておらず、諸外国とは異なる環境だ」として、大規模緩和を維持することにしました。黒田日銀総裁は、18日の記者会見で「円安が経済・物価にプラスになる基本的構図は変わっていない」と発言し、金融緩和の縮小を強く否定しています。

さらに21日には、パウエル議長が、「今後の利上げが1回あたり0.5%の大幅利上げにする可能性がある」と発言をすると、米国の長期金利が上昇し、22日の円相場では1ドル120円台まで円安が進む状況になりました。

ドル金利が上昇し、円金利がそのままだと、内外金利差が拡大します。ドルは世界的に安全な通貨であり、そのドルで運用した方がお金が増えますので、ドルを買って円を売ります。

これで円安がさらに進んだということです。

このように世界のマネーは、より利回りが見込めるドルに向かっているため、ドル高・円安が進みやすい環境下にあります。しかし、黒田日銀総裁は「金利格差と為替の関係は、学術的な研究でもはっきりしていない」とし、円安は低金利政策を転換させる直接的な要因にならないという見解を示しています。このようにパウエル議長や黒田日銀総裁の金融政策での発言は、金融市場にダイレクトに響いてくるのです。

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池田 幸代

株式会社ブリエ 代表取締役 証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不...

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