学生にも「103万円の壁」がある!バイト代が扶養控除の上限を超えたらどうなる?
パートやアルバイトで働く際に、年収103万円を超えないように働いているという話を聞いたことはないでしょうか。年収が一定額を超えると、税金や社会保険料の負担が増え、世帯全体の手取りが減ってしまうからです。扶養から外れることや年収の壁については、配偶者ばかりではなく、扶養親族である学生の年収についても同じことがいえます。
今回は、扶養控除を中心に税金を計算するしくみと収入の壁について確認していきましょう。
税金を計算するしくみ
会社員や公務員で働く人にとっては、税金は給与から天引きされているので、手取りには関心があっても、税金はよくわからないと感じている方が多いのではないでしょうか。毎月の給与から納めている所得税の税額を年末に計算し直すのが、年末調整です。10月頃になると生命保険会社から控除証明書が送られてきますね。その年末調整の提出書類には、○○控除という文字がたくさん記載されています。
会社員など給与所得者の税金は、給与収入から必要経費と見做す「給与所得控除」を引きます。給与所得控除後の金額から、「所得控除」を差し引くことができます。
たとえば扶養している家族の人数を考慮することや、加入している保険や盗難や災害に見舞われた場合などの社会政策の配慮というものです。これを所得控除といいます。大きく分けると、人に対しての控除と物に対しての控除に分類されます。
給与収入から給与所得控除と所得控除を差し引いた金額を「課税所得」といい、この課税所得に金額に応じた税率(5%〜45%)を掛けて、納める所得税額が決まります。ですから給与収入から差し引く所得控除が大きければ、手取り収入が増えることになります。
さらに一定の要件を満たしてローンを利用して住宅を購入している場合や配当がある場合などには、税額から控除する「税額控除」が利用できます。
所得税額の仕組み(給与所得の場合)
図表:筆者作成
そもそも扶養控除とは?
先ほど触れたように、所得控除には人と物に対する控除があります。
扶養控除は、人に対する控除にあたり、家族を養っている人の納税の負担を軽くするための控除です。養っている家族が多ければ多いほど、生活費がたくさんかかります。控除の対象になる扶養親族がある場合には、一定の金額の所得控除が受けられます。
税法上で控除対象扶養親族になるのは、その年の12月31日時点で、年齢が16歳以上の人で、次の要件のすべてに当てはまる人のことをいいます。16歳未満の子どもの場合は、児童手当の対象になるため、扶養控除は受けられません。
●要件1:納税者の配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)で、納税者と生計を一にしている人
納税者と同居が原則ですが、自宅を離れて大学に通っている場合や、単身赴任中の父親が家族と別に生活している場合なども扶養の対象になります。
●要件2:年間の合計所得金額が48万円以下、給与のみの場合は給与収入が103万円以下の人
●要件3:青色申告者の事業専従者や白色申告者の事業専従者でない人
●要件4:他の人の扶養親族、または控除対象配偶者になっていない人
夫婦共稼ぎの場合には、子どもはどちらか一方の扶養にしか入れません。年収が多いと税率が高いので、夫婦の年収をくらべてメリットが大きいほうを選ぶとよいでしょう。
また、扶養控除は扶養親族の年齢によって異なります。さらに70歳以上の親族は、同居か別居かで控除額が変わります。この場合、病気の治療の入院は「同居」ですが、介護施設などに入所している場合には「同居以外」になります。
扶養控除の控除額
図表:筆者作成
大学生を養う親は控除額が多い
扶養親族のうち一番負担が大きいのは、何といっても教育費が一番かかる大学生の頃です。こうした親族を持つ納税者の負担を軽減するために、19歳以上23歳未満の特定扶養親族の場合には、1人あたりの控除額が多くなっています。
16歳以上70歳未満の扶養親族を見てみると、1人あたりの控除額は38万円をベースにしていますが、親族が大学や専門学校などに通う時期にあたる19歳以上23歳未満の時期には、25万円控除が上乗せされて63万円の扶養控除額になっています。
扶養控除のメリットは、税金の負担が軽くなることです。たとえば親の扶養に入っている子どもがアルバイトをしても、年収が103万円以下ならば、子どもに所得税がかかりません。そのうえ、扶養する親は、扶養控除の分だけ所得税や住民税が安くなります。
扶養控除でどれくらい税金が安くなるかは、納税者の年収で変わってきます。19歳以上23歳未満の特定扶養親族の場合の控除額は、所得税は63万円、住民税は45万円です。たとえば年収が500万円の場合には、所得税の税率は20%、住民税率は10%なので、特定扶養親族が1人いるとすれば、所得税が12万6000円、住民税が4万5000円安くなります。
所得税:63万円×20%=12万6000円
住民税:45万円×10%=4万5000円
1年間で特定扶養親族1人あたりの税金の軽減は、所得税と住民税を合わせると17万1000円にもなります。扶養親族のうち大学生が数人いる場合には、扶養者である親の負担はかなりラクになります。
親が扶養控除を受けるためには学生の収入は103万円以内が条件
年収が一定額を超えると扶養から外れてしまうので、収入の「壁」と呼ばれています。実はこの収入の壁には、税法上の扶養と社会保険上の扶養には違いがあります。
●所得税の103万円の壁
103万円の壁は、所得税が発生するかのボーダーラインです。
所得税は、アルバイトやパートなどでも課税されます。しかし、年収が103万円以下であれば課税されません。年収が103万円を超えると所得税を納める必要が出てきます。
なぜ収入が103万円なのかというと、基礎控除が48万円と給与所得控除が最低55万円で合計すると103万円になるからです。所得税を計算する場合には、その年の1月~12月までの1年間の収入から「基礎控除」と「給与所得控除」を差し引いて、残った金額に所得税率を掛けて計算します。1年間の収入が103万円以下であれば、基礎控除と給与所得控除を差し引くとゼロになるため、所得税を納める必要がありません。
●社会保険の壁は106万円と130万円
年収が130万円を超えると配偶者や親の健康保険の扶養から外れて、自分で社会保険に加入する義務があります。勤務先が社会保険に加入していない場合には、国民健康保険に入ることになります。また、月収や勤務条件、会社の規模などによっては年収が106万円を超えると社会保険に加入するケースがあります。
<年収106万円を超える場合の社会保険の加入条件>
・正社員の人数が501人以上の会社で働いている
・月収が8万8000円以上
・雇用期間が1年以上
・週20時間以上働いている
・学生ではない
今後は社会保険への加入対象が広がる(※)ことになっていて、106万円の壁は2022年10月から
・従業員の数が101人以上
・雇用期間が2か月以上
さらに2024年10月からは
・従業員の数が51人以上
となる予定になっています。
所得税は、収入を得ている人が親の扶養親族である場合には、扶養控除の対象になるので、親(扶養者)が所得控除を受けられます。しかし、親(扶養者)が控除を受けられるのは、合計所得が48万円以下、給与所得のみなら年収が103万円の扶養親族である場合です。
もし103万円を1円でも超えると、親は扶養控除を受けられなくなり、税金の負担が増えます。そればかりではなく、収入を得ている本人にも所得税や住民税を納める必要が出てきます。
さらに配偶者と学生の場合では、収入の壁に違いがあります。
配偶者の場合には、配偶者控除のほかに配偶者特別控除があります。配偶者特別控除の場合には、配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下の場合に対象となり、配偶者の年収が150万円以上になると扶養者の手取りに影響が出てきます。配偶者特別控除がゼロになるのは、配偶者の年収が201万6000円です。
しかし、学生の場合には配偶者と違って段階的に控除額が増減するしくみにはなっていません。アルバイト代が103万円を超え1円増えたばかりに、親の扶養控除はなくなって税金の負担が多くなってしまうのです。もちろんアルバイト代は多いほうがいいでしょうが、親の扶養内にある場合には、家族とよく相談しておかないと困った状況になる可能性があります。
扶養控除を受けるためには、学生にも103万円の壁があることを覚えておきましょう。
※:日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
学生であっても税金がかかる場合もある
学生であっても、1年間に一定以上の収入があれば税金を納める必要が出てきます。納税者本人が勤労学生であるときに控除される「勤労学生控除」があります。
所得税については、103万円を超えると納税することになりますが、学生の場合「勤労学生控除」というものがあり、納税者自身が勤労学生で、要件を満たせば27万円控除されます。つまり、所得税の103万円の壁が130万円まで広がることになります。
また、住民税は住んでいる市区町村で金額が異なる場合がありますが、年間100万円以上(自治体によっては93万円以上)の収入がある場合に納税義務が発生します。勤労学生控除の場合には、126万円以下が非課税となります。
<勤労学生控除の条件>
・自分の給与所得があること。
・合計所得が75万円以下(給与収入なら130万円以下)で、給与所得以外の所得が10万円以下であること。
・高校、大学、専修学校などの学生であること。
以上の条件にすべて当てはまる場合には、勤労学生控除されます。
勤労学生控除を受けた場合には、本人は年収130万円までは所得税がかかりません。しかし、親の扶養に入っている場合には、学生がアルバイトをして年収が103万円を超えた場合には、親(扶養者)は扶養控除を受けられなくなるので、その分親の税金の負担が大きくなります。学生の収入によっては、世帯内の手取り収入が減ってしまい、損になってしまう可能性もありますので、特に注意が必要です。
このように学生が親の負担を増やさずにアルバイト代を稼ぐ場合には、年収103万円を超えないように意識することが大切になります。