日本は失業率が低いのに、なぜ景気は低迷し続けているのか
景気が良くなるためには、失業率を低くするだけでは不十分
失業率とは、労働力人口のうち仕事をしていない人の割合です。つまり、少しでも働いて収入を得ていたら失業者ではないということなので、アルバイトで働いて、月3万円でも収入がある人は、失業者ではありません。
たとえば、次のような場合を考えてみましょう。
20代の夫婦で、夫が正社員で働いて月の収入が手取りで25万円。ただし、そのうち残業手当が5万円のため、残業カットになってからは20万円に減収。妻は子育ての合間にパートで働いて月5万円。
二人合わせて25万円の収入では、都内で暮らすとすれば家賃だけで10万円近くかかることも多く、生活は厳しくならざるをえません。
夫婦とも失業者ではありませんが、お金に余裕はなく、欲しいものを買うことも少なくなってしまいます。新しい家電や自動車は買い控え、レジャーにもあまりお金をかけられず、マイホームを買うにも頭金の貯蓄もままならないでしょう。
現在の日本では、この例のように一生懸命に働いているにもかかわらず、ゆとりのある生活に十分な収入を得ることが難しくなっています。
消費に向かうお金が少なくなれば、経済は回らず、景気は良くなりません。
この状況を的確に表すのは、失業率よりも、賃金率と一人当たりの労働生産性です。
賃金率とは、一定時間または一定量の労働に対して支払われる賃金を表します。
グラフは、世界の賃金増加率です。日本では、2008–17年の全体的な賃金成長率は、ほぼゼロでした。
世界の賃金増加率
出典:世界賃金報告 2018-19年版
同じ時間働いても、賃金率が低ければ収入は減ります。収入が少なければ消費支出は少なくなります。
収入を増やそうと長時間働けば、時間と体力がなくなります。そして、やはり必要最低限のモノやサービスしか買わない暮らしになってしまいます。
一人当たりの労働生産性は、労働者一人あたりに生産できる成果を数値化したものです。
日本の一人当たりの労働生産性は、若干右肩上がりをしているものの、世界的に見てみると、どうしても見劣りしてしまいます。
一人当たりの労働生産性
出典:公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較」(2018年版)、「OECD加盟国の国民1人当たりGDP」を元に筆者作成
労働生産性が高いほど、少ない労働力で効率的に大きな成果を出していることになり、経済成長の要因になります。
しかし、消費が少なくなれば生産もされず、生産されなければ消費もない、というように、生産と消費は表裏一体の関係になっています。
景気対策の一環として、雇用を安定し失業率を低く抑える政策がとられてきましたが、それだけで景気は上向きになりません。
景気が良くなるには、多くの人の「今までよりもいいものが欲しい」、「欲しいものを買う」、という気持ちと行動が必要です。そのためには、賃金率と一人当たり労働生産性を上げていく必要があります。
ひとつのデータだけで判断してはならない
失業率は景気判断の指標のひとつです。景気が悪くなれば失業率は上がり、景気が良くなれば逆に下がるのが、一般的なとらえられ方です。
しかし、今の日本のように、景気が悪いのに失業率が低いこともあります。大切なのは、ひとつのデータだけで判断しないこと。総合的に考えて、今後の景気の先行きを判断していくようにしましょう。
執筆者:ファイナンシャルプランナー(AFP) タケイ 啓子