日銀はなぜ大量にETFとREITを買っているの? 買い続けて大丈夫?

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なぜETFやREITを買い入れ続けるのか

日銀が国債だけでなくETFやREITも買い入れる理由は、物価の安定と金融システムの安定を図るため。言い換えれば、「日本の経済を安定させるため」です。

ETFは、東証平均株価(TOPIX)や日経平均株価などの指数に連動して価格が動く投資信託の一種です。投資信託とは違って証券取引所に上場していて、株と同じように売買できます。
ETFが買われると、証券会社はその分指標を構成する銘柄を購入します。ですから、日銀は間接的にTOPIXや日経平均株価の構成銘柄の株価を押し上げます。

またREITは、投資家から集めたお金でビルやマンションを買い、賃料収入などを分配する投資信託の一種です。つまり、日銀がREITを購入すると、不動産市場に資金が流れ込み、新たな物件を買いやすくなります。

日銀は国債・ETF・REITの買い入れ枠をどんどん増加させています。日銀は2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大対策措置も含めて、ETFの購入目標額をそれまでの年6兆円から年12兆円、REITも年900億円から年1800億円に倍増させると発表しました。 さらに4月には、それまで年80兆円としていた国債の枠を撤廃する方針も打ち出しています。

なお、日銀が買い入れているETFは、個人でも購入できます。日銀は「東証株価指数(TOPIX)」「日経平均株価(日経225)」「JPX日経インデックス400(JPX日経400)」の3本を買い入れています。
また、「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」にも買い入れを行っています。

インフレ目標は達成できていないが、景気の下支えを目指す

金融緩和を通じて、インフレ率2%は難しいまでも、インフレ社会にしていく姿勢は変わらないでしょう。日本経済にはそもそもインフレ率2%を達成しにくい構造的な理由があります。

まず、思うように賃金が伸びていない事情があります。政府・日銀は当初、企業の収益が上がれば、社員の給料が上がり、物価は緩やかに上昇し、また企業の収益が上がり…という好循環を期待していました。
しかし、企業は収益を社員に還元することには消極的でした。全労連のデータによると、諸外国の実質賃金は総じて右肩上がりなのに対し、日本の実質賃金は1割ほど減少しています。

実質賃金指数の推移の国際比較


出典:全労連「実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)」より

次に、日本は少子高齢化問題を抱えています。生産年齢人口が減れば、経済が縮小していくことは明らかです。また、社会保険や年金といった社会保障制度が今後も維持できるか、不安になる人が多いのもわかります。給料が増えていない現状ならなおさら、消費に回すことができなくなってしまいます。

また、物価に表れやすい公共料金などを引き上げないようにしていることも大きいでしょう。消費者目線ではありがたいものの、インフレ目標を達成するという視点ではマイナスの要因になってしまいます。

とはいえ、日銀ができることはインフレ社会を通じた景気の下支えです。日銀が時間を稼いでいる間に、いかにして、日本人の収入を増やすかという課題を乗り越えないといけないのです。
今まで賃金が上昇しなかった背景には、過去の雇用政策や法改正が大きな影響を与えています。同時に、一人当たりの労働生産性を高めていくのが大切です。

日銀の「出口戦略」とは

日銀は今後も国債・ETF・REITを買い続けるだろうという話をしましたが、一方で、こうした金融緩和を永遠に続けていくわけにはいきません。日銀も、無尽蔵にお金を出し続けることはできないからです。どこかで、買い入れる量を減らし、やがては売るという「出口戦略」が必要になります。

現に、2019年のETFの買い入れ額の目標は6兆円だったのですが、実際には4.3兆円にとどまりました。これは2018年の実績よりも2兆円少ない金額です。そのため、「日銀は出口戦略を検討している」などといわれました。実際にそうなのかは定かではありませんが、いずれ出口戦略が最大の問題になることは間違いありません。

日銀はETFを通じて株を購入し、株価を支えてきました。その「大口投資家」である日銀がETFを売却したとなれば、株価を大きく下落させる可能性があるからです。株価を維持したい日銀の売りで、株価が暴落しかねないというジレンマが発生しているのです。

持っているETFを売らないまでも、今ETFの買い入れをやめてしまったら、そもそも株価は維持できるのでしょうか。大きく下落して、再び不景気になってしまうかもしれません。さらに数十兆円の売りによって、株価が下落してしまえば、これまで株価を支えてきた努力が水の泡になってしまいます。

リーマン・ショック後のアメリカでは、景気回復を背景にして、徐々に資産の買い入れ額を減らしていきました。この時、株価は大きく下落しませんでした。
それと同じことが日本でもできれば、株価への影響は少なく済むかもしれませんが、アメリカのような景気回復が望めない状態で、そのような出口戦略が取れるのかは不透明です。

日銀の今後の動向に注目

日銀は、インフレ率2%の達成を目指し、ETFやREITを買い入れて市場にお金を注いできました。それによってインフレ率2%を達成し、景気回復を狙いましたが、現状それはまず無理という状態です。

買い入れを早々にストップすると、景気悪化・日銀のバランスシート悪化という問題を招くため、簡単にはストップできません。とはいえ、いつまでも買い入れを続けるわけにはいきません。
どこかで、出口戦略に向かうでしょう。そのときに日銀が「物価の安定」と「金融システムの安定」を保ちつつ出口戦略を取ることができるのか、注視しておきましょう。

執筆者:ファイナンシャルプランナー(AFP) 頼藤 太希

頼藤 太希

(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント 中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。...

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