3章第3話:「坂道の法則」/恋する3センチヒール
なぜ将来のためにお金を運用するのか。心音から教えてもらった話を聞いて玲奈は・・・
前回 3章第2話:「自助努力」
3章第3話「坂道の法則」
「ねぇ、玲奈って他の運用、何してるの?」
パスタのお皿は片付けられ、デザートと紅茶がテーブルに並んでいる。
ショートケーキを注文した心音は、フォークでショートケーキの端を切りながら、私の方を見た。
「積立の医療保険と、終身保険以外?」
「そう!」
ショートケーキをパクッと食べて、心音は頷いた。
デザートにショートケーキがあれば、必ず心音はショートケーキを注文する。
高校時代のあの頃と、変わらないなって思う。
つい私も、今日は高校生の時にハマっていたモンブランを注文した。
「ちょっと話しがずれちゃうかも知れないけど…。私、心音から保険の話しを聞くまで、全然保険のこと知らなかったの」
「そういえば、保険は大まかに三種類に分けられるっていう話しをした時、身を乗り出して聞いてくれたもんね。掛け捨てタイプとも言われている、定期保険。保障と貯蓄を兼ね備えている、養老保険。保障が一生続く、終身保険。この話し、覚えてる?」
ティーカップを片手に、少し不安そうな表情で心音は私を見た。
二口目のモンブランを口に含んだところだった私は、そのまま首を縦に二回振った。
「もちろん、覚えてるよ!養老保険の話しを聞いて、保険と貯蓄を兼ね備えているって、すごいことだなって思って。保険って、掛け捨てと終身タイプのイメージしかなかったから。私、心音から貯蓄タイプの保険の話しを聞いてから、運用に興味を持ったの」
「あっ。そうだったの?」
心音は、意外そうな顔をした。
「そう。返戻率とか、なんだか面白いなぁって思って」
「その時、玲奈に”坂道の法則”の話しとかもしたっけ?」
「坂道の法則?多分、聞いたことないと思う…」
去年、心音から保険の説明を受けた日のことを思い返してみた。
入社して半年くらいの時には、弱音を漏らすこともあったのに、知らぬ間に立派な営業マンへと成長をしていた心音。
真剣に、私の未来のことを一緒に考えてくれる心音の気持ちが嬉しくて、私は泣いてしまったのだった。
「坂道の法則って言うのはね…」
心音はルーズリーフとペンを取り出した。
「では、玲奈さんに問題です!25歳から月々いくら貯めていけば、65歳の時に1,000万円貯まるでしょう?」
私は、携帯電話の電卓を使って計算をしてみた。
「約2万円!」
「じゃあ、35歳だったら?」
「約2.8万円!」
「45歳は?」
「約4.1万円!」
「55歳は?」
「約8.3万円!」
直角三角形のような図に、心音は丁寧に数字を書き込んでいった。
「これ見てもらえると分かりやすいかと思うんだけど、55歳の時と25歳の時では月々貯めていく額に約6万円も差があるの。年を重ねるごとに、どんどん支払う額が大きくなっていくっていうのが、坂道の法則」
「全然違うね!」
「つまり、私達には時間があるっていうこと。だからこそ、みんな若い内に運用は始めた方が良いって言うの」
心音の目は、真剣な目をしていた。
私は、自分の中に何かを取り込むように、一度大きく頷いた。