3章第2話:「自助努力」/恋する3センチヒール

恋する3センチヒール

兄の死をきっかけに、将来のことを考え出した玲奈。
誰のために運用について学んでいるのか、本当の気持ちが見え始める・・・?
前回 3章第1話:「涙の決意」

3章第2話「自助努力」

2016年5月11日水曜日。新宿のパスタ屋さん。
約一年振りの心音とのディナー。

「心音は、最近どう?元気だった?」

茶髪のボブに、ほんのり内巻きパーマ。
小柄な体系に、癒し系の雰囲気。
けれども、保険の営業という肩書が内面の芯の強さを匂わしている。
心音は、花が開くような笑顔を見せた。

「おかげさまで順調だよ。玲奈は?」

「順調なら良かった。私も、お仕事は特に問題ないかな。心音の保険のお陰で、将来は安心だしね」

「去年はびっくりしたよ~。けど、玲奈が私に任せてくれて嬉しかった」

「お兄ちゃんの一件で、保険に加入しようって考えた時に一番に浮かんだからね。本当に、心強かった。最近はね、他の運用も始めたの。まだまだ、勉強しながらって感じだけど」

「おっ。いいねぇ」

くるくると、トマトクリームのパスタをフォークに巻きつけながら、心音は左手でグッドサインを作った。

「正直、私達の親世代くらいまではさ、終身雇用とか、年功序列賃金っていう言葉が定着していた時代じゃん?年金不安もないし、お給料も会社に勤めていたら勝手に上がるし、退職金もちゃんと出る時代。だから、運用とかそういうのを考える必要がなかったっていうのは納得なんだけど、私達世代にちゃんと運用に対する教育をして欲しかったなって最近すごく思う」

「それ分かるなー!私も、保険会社に勤めたからこそ、今の私達世代が置かれている状況が分かったもん。もし、このまま何も知らずに生きていっていたら…、って考えると怖くて鳥肌が立つ。ここに続けば間違いないからって、大人たちの後ろをそのまま歩いて付いて行ったら、いつの間に先頭を歩いていた大人達は消えて、私達世代だけ断崖絶壁に辿りつくような、そんなイメージ」

心音は、手を胸の前でクロスさせて自分の腕をさすった。

「晩婚化、未婚化、出生率の減少とかで、ライフサイクルそのものが、なんか変わってきている感じがするもんね。平均寿命が8年くらい延びているんだから、老後に必要な金額とかも昔とは全然違うなぁって思う。結局さ、定年退職があるって考えたら、働いているのって約40年間くらいじゃん?だから、やっぱりお給料が毎月口座に振り込まれているうちに、自助努力として、お金の運用はするべきだなって思うの」

2日前に会った俊明くんの顔が、思い浮かんだ。
公務員として勤める俊明くんの将来は、普通の民間のサラリーマンよりかは安定だとは思う。
けれど、この先何があるかは分からない。
俊明くんが、将来困ることのないように、しっかり運用について知識を身に着けてあげるのが私の使命のように感じていた。
まだ熱いラザニアを口に含んで、私は慌てて水を飲んだ。

3章第3話:「坂道の法則」

みかみ

パグ犬愛好家。 趣味は、投資。夢は、世界を虜にする小説家。

プロフィール

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