2章第8話:「焼肉の煙と過去」/恋する3センチヒール
投資への考え方に対して方法も違うと知った玲奈。
大介からさらに新しい投資を知って・・・
前回 2章第7話:「甘いココアと…」
2章第8話:「焼肉の煙と過去」
「3階の右の角部屋。あそこのオーナー、実は俺なんだ」
「へ?大介さん、不動産投資もやっているんですか?」
「うん、まぁ。つい最近ね。築30年の物件だけど」
「築30年!ということは、中古ですよね?どうして、不動産投資の中でも中古物件を選んだんですか?」
「会社の先輩が、中古の投資用不動産をワンルームで買ったって聞いたのがキッカケかな。インターネットを使って調べていたら、不動産投資だと中古推しが多かったからね。大多数が推しているなら、間違いないかと思って」
「あっ。そうなんですね」
居酒屋に向かう途中、投資用不動産として購入した物件の前を通るコースを用意した。
もちろん、お金の運用に興味がある彼女のために。
金曜日の夜。半蔵門駅から、徒歩5分。
半蔵門駅から少し歩いて、市ヶ谷方面に向かう途中にさり気なく紹介した。
「そういえば…、大介さんが持っているマンションって、表面利回りどのくらいなんですか?」
知り合いが経営している焼肉屋。
ハイボールで乾杯したあと、網の上にカルビを並べながら彼女は言った。
「価格が2,300万円で、4.5%とか。てか、表面利回り聞いてくるとか、もしかして玲奈もオーナー?」
「へへっ」
トングを持って、白いエプロンをつけた状態で意味ありげに彼女は笑った。
「えっ。どっち?」
「実は、最近私も不動産投資の勉強をしていて。少しだけ分かるんです」
「そっかぁ。さすがだな」
柔らかい雰囲気の彼女。
たまに感じる芯の強い部分は、資産運用に対する彼女の情熱そのもののような気がした。
なぜだか頭の片隅に、似ている女性を思い出して小さく首を振った。
彼女は、携帯電話の電卓機能を使って、計算を始めた。
「あれ?表面利回りの計算式って、表面利回り=年間収入÷購入価格ですよね?」
「そうだよ」
「2,300万×4.5%÷12は…、家賃収入で大体8万6千円くらいですか?」
「そう。700万円頭金を払ってあるから、ローンと管理費を家賃収入から引いて月々プラス5千円位で、まわってる」
彼女は「なるほど…」と小さく呟き、携帯電話の画面を口をすぼませた表情で眺めた。
「利回り的には、新築と変わらないんですね」
「新築か中古かって、好みの問題だと思うよ。もはや」
実際は、好みの問題というより、意地だった。けれど、彼女を前にして本音を言う訳にも、いかない。
「けど、築30年でも、家賃って結構入ってくるんですね」
「まぁね。あそこは、立地が良いからね。駅から近いし、オフィスも多いし、大学とかも徒歩や自転車でいける範囲内にあるし」
「しかも、ここって千代田区ですよね?地価ランキング、中央区に続く全国2位ですよね?」
「玲奈めっちゃ詳しいじゃん。仕事、不動産関係だったっけ?」
「いや、メーカーの事務職です。ただ、たまたまこの前読んだ本に書いてあっただけです。あっ、お肉出来ましたよ」
綺麗に焼けているカルビを、彼女は取り皿に乗せてくれた。舌の上で、とろける脂身。
「いただきます」と丁寧に手を合わせてカルビをパクッと食べた彼女は、幸せそうに目を細めて、頬を緩ませた。
彼女の魅力にハマっちゃったなと、小さく溜息をついた。