止まらない円安「1998年の円安水準」を突破!24年前には何があった?

止まらない円安「1998年の円安水準」を突破!24年前には何があった?
マネーケア

2022年に入ってロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、小麦や天然ガス、石油といったエネルギー資源が高騰しています。物価の安定を目指して行われている米国の利上げは、円安・ドル高の勢いが強く、落ち着きどころが見えなくなってきました。多くの資源を輸入に頼る日本は、円安になればなるほど原材料が高騰し、私たちの家計にまで影響が出てきています。

あまりにも短期間で円安が進み「1998年の円安水準」を突破し、本稿執筆時点で1ドル=149円に迫る水準まで進行。32年ぶりの円安水準と騒がれる局面となっています。

今回は、24年前の1998年を振り返ることにより、現在進行中の2022年円安と比較をし、今後の動向がどうなるのか考えていきたいと思います。

円安が加速、24年ぶりの水準

2022年9月の上旬には、いたる所で「24年ぶり」という言葉を耳にするようになりました。24年前のことなどすぐには思い出せませんが、「ミレミアム」という言葉と、何となく2000年を前にして暗い世相だったような記憶があります。

2022年の円安の急激な進行は、2022年3月上旬にアメリカで利上げが開始された頃から始まりました。この後、物価上昇を抑え込むために、6月、7月と思い切った幅で利上げが決定されてきました。しかし、8月10日にアメリカの消費者物価の上昇率が高水準であるとの発表を受けて、さらなる金融引き締めの必要性が明確になりました。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も「経済が減速してもインフレ(物価上昇)を抑制する」と、積極的な利上げ姿勢を崩しませんでした。

9月に入るとさらに円安が進み、9月13日に8月の米国消費者物価指数(CPI)が公表された後に、5分足らずで142円台から144円台に急落する場面もありました。9月14日には、日銀による「レートチェック」と呼ばれる銀行への為替相場の照会を経て、同月22日には24年ぶりになる円買い介入も行い、円安の是正に動いています。その是正も徒労に終わっている状況です。

米国のインフレの原因は、ロシアのウクライナ侵攻による供給不足コロナ禍からの消費拡大、人手不足による賃金上昇などにより、モノやサービスの価格が急騰しているためです。このためFRBがさらに金融引き締めを強化していくことに対し、その反動による経済の大きな落ち込みに発展しかねないと多くに人たちが不安を抱き始めています。

特に景気の先行きに警戒感がある状況では、予想を上回る統計の発表には市場が動揺してしまいます。また、そのタイミングで投機筋の円売りも重なり、大きな変動率になっています。そうした米国のインフレ警戒感が24年ぶりの円安水準を招いたといえるでしょう。

ドル円相場長期チャート:1998年以降

https://lets-gold.net/chart_gallery/chart_usdjpy_long_term.phpから引用

24年前の円安になった要因と1998年の時代背景は?

円安が24年前と同水準だとしても、1998年と2022年に円安が進んだ要因は異なります。24年前の1998年がどんな時代だったかを探ってみましょう。

1998年当時は、完全失業率が過去最悪など、戦後最悪の不況が続いていました。その中でも、大手金融機関の破綻が続く金融危機は、庶民にとっても大きな恐怖でした。このとき円相場は、1998年夏に1ドル=140円台まで下落し、8月11日に147円64銭をつけています。

1998年10月には、日本長期信用銀行や日本債券信用銀行といった割引国債を発行する大きな銀行が破綻しました。前年1997年11月の大手証券会社の山一証券や都市銀行の北海道拓殖銀行の破綻に引き続き、今までの大きな金融機関だから大丈夫だ(つぶれない)という神話が崩れていきました。

特に、バブル期に貸し出した資金が不良債権となって、多くの金融機関に大きくのしかかっていました。金融システムを安定化するために「金融再生法」や「早期健全化法」の法律が成立しています。公的資金枠を拡大し、公的資金を大量注入して金融機関を再生する動きも出てきました。

このあたりから私たちの生活においても、ペイオフが現実味を帯びてきました。銀行が破綻したときのことを考え、個人でも1行あたり1000万円までの預金額に敏感になり、預ける銀行を選別するようになったのです。

また、金融不安に加え、「運用部ショック」と呼ばれる債券相場の金利高騰も起こりました。1998年9月には0.7%を割り込んでいた利率が、年末には2%台になったのです。この時期には不況を反映して、当時の小渕内閣では国債を大量に増発していました。そのため11月に入ると、米国格付け会社のムーディーズは、公的部門の債務が膨らんでいることを理由に、日本の国債を格下げしました。これにより日本国債の信頼性に諸外国は懸念を抱きはじめました。

その後今まで国債を大量に引き受けていた大蔵省資金運用部が、国債の引き受け率を減らすと報道され、その後に大蔵省資金運用部が国債の買い切りオペレーションを中止すると発表しました。こうした国債の格下げ、需給の悪材料が重なり、債券の金利が高騰(債券の値段が急落)することになったのです。このようにさらに金融システムの不安定さが増すことにより、日本の先行きに誰もが暗いものを感じていたのです。

24年前と今回の円安の類似点と相違点

今まで24年前の時代背景を見てきましたが、同じ円安水準といっても、2022年の現時点とはかなり内容が異なります。類似点と相違点を整理しました。

1998年円安との類似点

日本にとって、円安になることは輸入価格が上昇するため、原料を輸入して加工・製造するとコストが増えることになります。

1998年においても、2022年においても急激に円安方向に動いたということで、為替の変化に実態が追いつかない点は同じです。為替の変動は、経済や市況に従うのが基本ですが、為替市場での「過度な変動」に限って、政府・日銀による介入が行われます。1998年には断続的に、2022年には9月22日に24年ぶりの円買い為替介入が行われました。

1998年円安との相違点

大きな違いは、物価との関係です。1998年はデフレ(物価の下落)が始まるタイミングでした。一方、2022年の場合は、世界的なインフレ(物価の上昇)が懸念されています。

物価が上がることは、一般消費者の家計にも影響がおよぶことから、円安のデメリットを感じやすいと言えます。

また、円安になった要因は、1998年においては金融システムに対する不安を原因とする「日本売り」でした。海外からの投資が日本から逃げていく状況でした。国債の格下げ、金融危機となり、今後の日本経済が悲観されていました。

それに対し2022年は、米国の積極的な利上げによる「米ドル高」の影響が大きく影響しています。これはコロナ禍からの経済が回復してきたことと、ウクライナ侵攻の影響で供給不足が生じていることで、急速なインフレが起きていることが根底にあります。実態経済が落ち着いてくれば利上げへの懸念が遠のきますが、インフレの収束が見えてきません。為替相場では国際的な決済の中心になる米ドルだけが強く、ユーロをはじめ世界各国の通貨が値下がりしています。

1998年円安との類似点・相違点のまとめ

※筆者作成

今後の円安の動向予想

この記事を書いている間にも円の下落に歯止めがかからず、戸惑う状況が見られます。9月22日に行われた円買いの為替介入は、1日の介入額としては過去最大規模で2.8兆円でした。その介入も効果は一時的で、介入から3週間で介入前の安値をあっさり下回りました。

米国の利上げが行われることが確実だと予想されれば、日米の金利差の拡大を見込んだ円売りの動きが広がっていきます。とりわけ政府や日銀が「金融緩和を続ける」と会見でアピールすると、円安が進行する悪循環に陥っています。一方、米国では、金利と保有資産の縮小の両面から金融の引き締めを行い、インフレ退治を行うスタンスです。この日米の金利差が大きくなればなるほど、米ドルへお金が流れていきます。

世界の国々では米国の利上げにともない、自国の利上げを行うことで経済の均衡を保っています。景気が回復した米国やエネルギー資源を輸入に頼るヨーロッパ諸国は、モノやサービスにしてもインフレが進み、価格の上昇が著しくなっています。しかし、日本の物価の上昇率は緩やかで、給与も上がっておらず、利上げにつながる動きに欠けています。そのほかにも物価対策で、低所得者への5万円給付やガソリン補助金の延長で家計を下支えしています。日本国内ではコロナ禍からの脱却で景気がよくなったとはいえず、日銀は大規模な金融緩和を続けて企業がお金を借りやすい環境を続けていく構えです。

日米の中央銀行の政策と経済情勢

※筆者作成

こうした政策方針の違いから、10月13日夜の米国CPIの発表後には24年前の安値である147円64銭を割り込み、次の節目は、1ドル=150円だという認識に変わってきています。

しかし、今後の為替介入が切り札となって、円安の流れを食い止めるのは難しいといわれています。日本だけの単独介入を繰り返しても効果が薄く、米国では輸入価格を押し下げるドル高を歓迎するので、日米協調介入は期待できないからです。

世界情勢においても、ミサイル攻撃でウクライナ情勢が緊迫しています。そこでリスク回避のために、基軸通貨である米ドルに資金が流れています。10月中旬に行われたG20(20カ国地域財務相・中央銀行総裁会議)でも対ロシアとの関係で参加国間の溝が大きく、共同声明をまとめることができませんでした。特に中国やインドはロシア寄りです。多くの国の通貨が米ドルに対して、値下がり率が増加していて、経済的な痛みも伴っています。今後、国際協調としての枠組みに期待することも難しそうです。

仮に米国のインフレが収まれば米国の金利は上がらなくなりますが、世界経済は後退して歴史的な不景気になるかもしれません。その時点で日本の国力が落ちていれば、円高に振れるかどうかは疑問です。

今回の2022年の円安の最大の原因が、日米の金利差の拡大です。日本経済が強ければ、金利差をうめていくことも可能となるでしょう。速攻的な効果は望めずとも、国際競争力の回復に向けた体質改善が求められます。外側からの他力で状況の好転を望むのではなく、日本の構造や意識の変化という「改革」を求められる時期に来ているのではないでしょうか。

池田 幸代

株式会社ブリエ 代表取締役 証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不...

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