アベノミクスの7年8カ月を振り返る 「3本の矢」は達成した?

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中途半端感が否めない「新・3本の矢」

2015年9月に、安倍前首相は「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言しました。それまでのアベノミクスで得られた成果をもとに、「新・3本の矢」を放つと発表したのです。新・3本の矢の中身は、以下のとおりです。

①希望を生み出す強い経済

ひとことでいうと、2020年の名目GDP(物価などの影響を加味しないGDP)を600兆円にするという目標です。医療分野のイノベーションや国際展開、観光の強化、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の推進、女性や高齢者などの雇用拡大などを通じて実現する、としていました。

②夢を紡ぐ子育て支援

現状1.4程度の出生率を改善させ、「希望出生率」を1.8以上にするという目標です。希望出生率とは、「国民の希望が叶った場合の出生率」と説明されており、いわゆる「合計特殊出生率」とは違うことに注意が必要です。その実現のために、待機児童の解消、子育て支援の推進などが挙げられていました。

③安心につながる社会保障

介護による離職をゼロにするという目標です。そのために、介護サービスの確保や、介護で働く環境の改善、地域共生社会の実現などに取り組むとされていました。また、これらに付随して、同一労働同一賃金の導入や長時間労働の是正、高齢者や障がい者などの活躍推進などが掲げられていました。

最初の3本の矢はどれも「デフレ脱却」「富の拡大」とテーマが一貫していたのに対し、新3本の矢はテーマが多岐にわたっています。したがって評価も難しいのですが、数字の面の目標でいうとどれも達成できていません。

以上をまとめると、アベノミクスは、景況感を改善させ一定の成果を出したとはいえるでしょう。しかし、経済成長率2%は達成できず、実質賃金は上がらず、成長戦略が描けないまま時間が過ぎ、回復の効果が限定的になってしまっているのが現状です。

菅政権の経済政策はどうなる?

辞任した安倍前首相に代わり、2020年9月から菅義偉首相による政権運営がスタートしています。経済政策に関しては今のところ、アベノミクス路線を踏襲する方針のようです。政府と日銀が連携して金融政策を運営するとしています。
フットワークの軽さを感じられる報道もあります。縦割り行政や既得権益、前例主義を廃するスタンスで、「携帯電話料金引き下げ」「デジタル庁創設」「不妊治療への公的支援拡大」などの政策を打ち上げています。行政文書のペーパーレス化、脱ハンコなどもその一環でしょう。

目下新型コロナウイルスの影響で、経済の落ち込みが激しくなっています。そのような環境の中で、菅義偉首相がこれからどのような経済政策を打ち出していくのか、注目しましょう。
筆者を含め国民が求めるのは「結果」です。「姿勢」を良く見せるだけでなく、断固たる決意で結果にコミットしてほしいと思います。

文・監修:ファイナンシャルプランナー(AFP) 頼藤太希

頼藤 太希

(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント 中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。...

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