アベノミクスの7年8カ月を振り返る 「3本の矢」は達成した?

マネーケア

「日本を、取り戻す。」とスローガンを掲げて2012年12月に政権復帰した安倍晋三前首相は、2020年8月28日に辞意を表明。7年8カ月にわたる長期政権が終わりを迎えました。

今回は、「アベノミクス」に代表される安倍前首相の経済政策を振り返り、この間経済はどうなったのか、振り返ってみました。

アベノミクスの「3本の矢」をおさらい

安倍前首相の経済政策でもっとも知られているのは「アベノミクス」でしょう。安倍前首相の苗字と、経済を意味するエコノミクスを合わせた造語です。

安倍政権が誕生した当時、日本経済はデフレ(デフレーション)による不景気にあえいでいました。
デフレは、モノやサービスの価格が下がることをいいます。ここだけ聞くと一見、消費者としてはよさそうですが、デフレ下でモノやサービスの価格が下がると企業収益が下がり、給料が下がり、物が売れなくなり、さらにモノやサービスの価格が下がる…という「デフレスパイラル」に陥ってしまいます。すると、ますます不景気になってしまいます。
こうしたデフレから脱却し、富の拡大を目指した経済政策が、アベノミクスです。

アベノミクスの中身は、「3本の矢」と表現されました。具体的には、次の3点です。

①大胆な金融政策

まず、デフレから脱却するために、大規模な金融緩和を行いました。金融緩和とは、金利を引き下げ、世の中に出回るお金の量を増やすことです。こうすることで、企業はお金を借りやすくなります。設備投資したり従業員を雇ったりすれば、経済活動が活発になり、会社が儲かるようになると考えたのです。

アベノミクスにおいては、年2%物価が上昇するというインフレ目標をかかげました。しかも、日本銀行(日銀)はそれが達成できるまで無期限の金融緩和を行うと発表。「異次元金融緩和」と呼ばれ、話題になりました。大企業が儲かれば、中小・零細企業にまで経済効果が波及するという「トリクルダウン」も期待されていました。

②機動的な財政出動

アベノミクスでは、企業にお金を使ってもらうだけでなく、政府も自らお金を使いました2011年に発生した東日本大震災からの復興、各地域の活性化、安全性の向上などを目的に、公共事業を行ったのです。
古くなった道路や橋を整備したり、新しく建物を立てたりしました。景気対策としてはよく行われる手法ではあります。建設会社が儲かれば、そこに携わる企業や従業員も儲かるようになり、経済が活性化すると考えられていたのです。

③民間投資を喚起する成長戦略

お金を調達しやすくし、政府がお金を使っても、肝心の企業がお金を使わなければ、景気はなかなか回復しません。そこで、政府は法人税を引き下げたり、さまざまな規制緩和を行ったりして、企業にお金を使ってもらおうとしたのです。たとえば外国人観光客の増加や電力・ガスの自由化などは、アベノミクスの一環で行われたことです。

また、女性や若者、高齢者などが活躍できる環境づくりや、新たな市場の創出なども掲げていました。こうした取り組みにより、実質経済成長率2%の水準を達成することが目標とされました。

「金融政策」は成功、「消費増税」は失敗、「成長戦略」は中途半端

では、その効果のほどはどうだったのでしょうか。
アベノミクスの3本の矢のうち、特に金融政策については、大きな効果があったといえるでしょう。日本銀行(日銀)による大規模な金融緩和によって、株価は2年ほどで就任時の2倍ほどになりました。また、それに合わせて為替レートも円安に進んだのです。

日経平均株価と為替レート(2012年1月〜2020年9月・月次データ)

日経平均株価と為替レート

図:日本経済新聞社「日経平均プロフィル」、日本銀行「外国為替相場状況(月次)」より筆者作成

日経平均株価は、就任時点の2012年12月にはまだ1万円に届いていませんでしたが、2013年以降は急激な右肩上がりとなり、2015年には2万円を突破しています。そして2020年時点でも、2万円以上をキープしています。
また米ドルと円の為替レートも、就任時点では70円台でしたが、同じく2015年には120円台にまで円安となったのです。為替レートが円安になると、品物を海外に向けて販売している輸出企業の利益が大きくなります。

また、雇用も拡大しました。2012年の平均有効求人倍率は0.80倍でしたが、その後年を追うごとに上昇。2019年には1.60倍となっています。2020年はコロナの影響もあり8月までの平均で1.25倍となっていますが、それでも2012年時点よりは回復しています(厚生労働省「一般職業紹介状況」より)。

ただし、そうして企業の業績が回復しても、それによって景気が回復したとはいいにくい状況です。なぜなら、個人の給料は増えていないのが実情だからです。

2015年を100としたときの実質賃金(物価の変動を加味した賃金)は、むしろ2012年、13年ごろのほうが高くなっています。これは、物価の上昇に給料の上昇が追いついておらず、お金の価値が相対的に目減りしてしまっていることを表します。しばしば「景気回復の実感がない」などと言われるのは、このためでしょう。2本目の「機動的な財政出動」の効果も、読み取ることはできません。

年別実質賃金の推移(2015年=100)


※2020年は1月〜8月(速報)までの平均
図:厚生労働省「毎月勤労統計調査」より筆者作成

さらに、消費税の増税が追い討ちをかけています。
2014年4月には5%から8%、2019年10月には8%から10%(食料品など例外あり)と、2度にわたり消費税率がアップしました。消費税が上がっても、それを上回るペースで給料が上がっていれば、それまでの生活は維持できるはずです。しかし、先に紹介したとおり、それはできていません。

実質経済成長率2%の目標を四半期ごとに確認すると、実質GDP(国内で生産されたモノやサービスの儲け。前年度と比べて上昇した割合が「実質経済成長率」)は一度も2%に達しませんでした。しかも、2回の消費税増税の直後には、いずれも2%近いマイナスになっています。景気を改善しようとする一方で、消費税の増税が大きな足かせになったことは間違いありません。

四半期実質GDP成長率(2012年〜2020年第2四半期)


図:厚生労働省「国民経済計算(GDP統計)」より筆者作成

こうしてみると、「民間投資を喚起する成長戦略」については、志半ばだったと言わざるをえません。たとえ金融緩和や公共事業を行って景気がよくなったとしても、その後の成長戦略が描けないようであれば、景気回復も一時的なものにとどまってしまいます。
「成長戦略は一丁目一番地」、そう位置づけられてきましたし、市場もそれを期待していたはずですが、残念ながら将来へのビジョンは描けていなかったといえそうです。

さらに、毎年2%ずつ経済成長することによって目指した財政健全化(プライマリーバランス)も、結局黒字にはなりませんでした。プライマリーバランスが赤字のままだと、国の財政赤字状態はいつまでも改善されないことを示しています。

続いて、2015年9月に発表された「新・3本の矢」がどうだったのか、見ていきましょう。

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頼藤 太希

(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント 慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Mone...

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