居住用の不動産賃料は何と連動する? データから読み解く将来の動向
初めて支払った家賃といえば、進学や就職で親元を離れて、一人暮らしを始めた時という人は多いのではないでしょうか。生活の基盤である住まいも、新型コロナウイルスの感染拡大によって、在宅勤務が求められ、仕事の場として活用せざるを得ないご時世です。このまま今のところに住み続けるのか、引っ越しをするべきか迷いますね。
今回は、不動産賃料は何と連動するのか、家賃の変遷から将来の動向を考えてみましょう。
不動産賃料推移と物価の関係
まず、不動産賃料は、大きく分けると住宅とホテルや店舗などの住宅以外に分けられます。
今回は、住宅に絞って解説していきます。
それでは、居住用の賃貸物件の家賃の推移を見てみましょう。居住用の住宅は、居住のみを目的に建築された「専用住宅」と居住スペースと店舗、事務所などの業務用のスペースがある「併用住宅」に分けられます。ここでは、専用住宅について取り上げます。総務省「住宅・土地統計調査」は、5年に一度行われています。
平成30年(2018年)調査の1973年から2018年までの専用住宅の1カ月家賃の推移(全国平均)は以下のとおりです。年月とともに1万29円から2018年では5万5695円と上昇してきました。
専用住宅における1カ月の家賃の推移
専用住宅における1ヶ月の家賃の推移
総務省「平成30年住宅・土地統計調査」をもとに筆者作成
次に、昭和の時代まで遡って物価の変遷と家賃がどう変化してきたかを、総務省の消費者物価指数(CPI)をもとに調べてみました。消費者物価指数は、消費者が購入するものやサービスなどの物価の動きを把握するための統計指数です。2015年を物価の基準年としています。また、生鮮食料品は季節や天候の変動を受けやすいので、生鮮食料品を除いたコア消費者物価指数(コアCPI)と民営家賃とを比較しています。
消費者物価指数と民営家賃
総務省「消費者物価指数」をもとに筆者作成
グラフでも分かる通り、家賃は、物価に連動する動きがあります。ただし、株価のような迅速さはありません。過去の物価上昇が大きい時期には、家賃は時期が多少遅れますが、物価が上がれば家賃も上がる動きを見せています。賃料には「遅効性」といって、土地の価格や不動産価格に遅れて賃料に反映する特質があります。
過去の動きでは、1973~1975年に大きく物価が上昇しています。これは、第1次オイルショックによりガソリンや紙などが不足し、買いだめ客が殺到し、狂乱物価となったためです。近年では、都内はオリンピック開催のために建設ラッシュで家賃が上昇した地域もあるでしょうが、全国規模で見てみると、この20年余りの間、民営家賃はほぼ横ばいの状態です。
人口の増減と賃料の関係
賃料相場は、立地や物件の特徴に左右されますが、不動産の価格に関する原則に「需要と供給の原則」があります。需要が大きければ、物件が少なくなって価格が上がり、供給過剰になれば、借り手が少ないので賃料を下げざるを得なくなります。
経済活動が活発で求人が多い時には、職が増えて転入者が増えた結果、需要が増えます。そこで、都道府県別に人口の増減と家賃の関係を見てみましょう。人口の増減や増加率・減少率は2015年と2019年10月1日の国勢調査人口をもとにしています。
都道府県別人口増加・減少
人口増加率が高い都道府県・人口減少率が高い都道府県
2015年・2019年10月1日の国勢調査人口をもとに筆者作成
東京都は、人口の流入数も増加率も高く、賃貸住宅の需要が大きいことがわかります。人口流入数は関東圏、または名古屋圏に集中しています。逆に人口が減少しているのは、東北地方が目立ちます。
また、地方でも沖縄県は人口の増加率が大きくなっていますが、これは定年後のセカンドライフを気候が温暖な沖縄で過ごすために移住する人が多くなっているためです。
三大都市圏と地方を比較してみましょう。家賃の二極化がみられます。家賃が一番高いのは東京都で、次いで神奈川県です。一方、家賃が一番安いのは鹿児島県で、次いで青森県でした。参考に持家比率も掲載しました。人口の流入が少ない地域では、賃貸物件を借りるよりは持家を選ぶ人が多く、需要が少ないため、賃料相場も低くなる傾向があります。
1ヶ月あたりの家賃・間代
持ち家比率と1ヶ月の家賃
総務省「平成30年住宅・土地統計調査」をもとに筆者作成