地政学リスクが高まると世界経済や金融商品はどうなる? 投資家はどう立ち回る?

地政学リスクが高まると世界経済や金融商品はどうなる? 投資家はどう立ち回る?
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アメリカ同時多発テロの影響はどうだったのか

地政学的リスクが起きると、為替相場や株価などに大きな影響が出ることがわかりました。

では、その影響はどのくらいの規模だったのでしょうか。

過去の事例、ここではアメリカの同時多発テロを取り上げ、時系列で見ていきます。

アメリカ同時多発テロは、2001年9月11日に発生した、イスラム過激派によるアメリカへの攻撃です。ハイジャックした航空機でワールドトレードセンター(世界貿易センター)に突入し破壊、さらにペンタゴン(アメリカ国防総省)に墜落し崩壊させた事件です。

ワールドトレードセンターとその周辺の大規模な破壊により、ウォール街が9月16日まで閉鎖されるなど、ニューヨークは機能不全におちいりました。

ニューヨークは国際金融の中心です。そのため、世界の金融市場にも多大な影響が出ました。

USドル/円の為替レートと、NYダウ・日経平均株価の動きを見てみましょう。

USドル/円の為替レート(2001年9月1日〜12月31日・日足)

NYダウ(2001年9月1日〜12月31日・日足)

日経平均株価(2001年9月1日〜12月31日・日足)

investing.comのデータをもとに(株)Money&You作成

9月12日には、世界的な株安となり、日経平均株価でも前日11日の終値から682円(前日比-6.6%)下げて、終値が9,610円をつけました。

為替は、120円台で推移していたUSドル/円の相場は、118円~122円の乱高下が見られ、かなりの値動きがあったことがわかります。

アメリカが有事だったことから、「有事のドル買い」とはならなかったようです。

アメリカでは9月16日まで金融市場が閉鎖。9月17日、取引が再開されるとNYダウは684.81ドル下落しました。そして9月21日、NYダウは底値である8062ドルに達し、為替は、115円まで円高ドル安が進みました。

しかし、短期的に大きな為替、株式の価格変動はあったものの、市場関係者の努力や、金融市場での主要各国の中央銀行の働きかけもあり、2カ月ほどでテロ発生前の水準に戻しています。主要国の中央銀行は、テロによる金融市場の混乱を回避するため即日声明を発表、機動的に市場への流動的供給を行いました。

やはり、国際的な影響力の大きいアメリカの金融市場ですから、早期に機能回復させるため、各国の中央銀行の協力があったことが功を奏したと考えられます。

つまり、地政学リスクは、インパクトは大きいものの調整期間は短く、景気後退につながるきっかけになることも少ないと言えます。

地政学リスクにどう対処する?

では、地政学リスクが発生した際、個人投資家として、どのように立ち回ればいいのでしょうか。

状況がおさまるのを待つ

もっとも現実的だと思われるのは、何もせず、状況がおさまるのを待つことです。

なぜなら、地政学リスクが発生しても、比較的短期間で元の水準に戻ることが多いからです。

地政学リスクが発生すると、リスクの大きい株価が下がり、逆にリスクの小さい債券価格が上昇します。多くの投資家が株を売れば、ますます株価が下がります。

株価がどんどん下がっていくと、資産が目減りしていきます。日を追うごとに含み損が膨らみ、いてもたってもいられないという人も多いかもしれません。

そんな時、狼狽(ろうばい)売り(株価が急落した際に、慌てて売却してしまうこと)をしてしまうと、底値で売ってしまい、損失を確定させてしまう場合が少なくありません。

そんな時には一喜一憂せず、じっと状況が落ち着くのを待つのも、ひとつの方法です。

状況がおさまっても、値上がりしそうにないものは損切りして売ったほうがいいでしょう。しかし、株価下落の雰囲気にのまれてしまうのは避けたいところです。

値下がりした株を買う

資産に余裕があるなら、株価が下がったタイミングで買っておくのもいいかもしれません。

投資の基本は、安く買って高く売ること。今後の株価上昇に向けて、仕込んでおくわけです。

ただし、あくまでも余裕資金の範囲内を守りましょう

地政学リスクは、個人の予想では及びもつかないことがあります。先行き不透明だからこそ、多くの投資家がリスクの小さい商品を選んでいる理由を改めて考え、投資先を選ぶといいですね。

新興国への投資は控えめに

新興国への投資は、リスクは大きいものの、成長の期待も大きく、その分大きなリターンも期待できる、と言われてきました。しかし、地政学リスクを考えると、不確定要素が多すぎるため、リスクとリターンのバランスがとれない不安があります。

現に、ウクライナに侵攻したロシアの株価は急落し、その後取引ができなくなっています。

こうしてみると、個人投資家が新興国へ投資する意味は薄いといえそうです。

新興国は社会インフラが整っておらず、災害などの被害が甚大になることが少なくありません。また、国際社会での位置づけも定まっていないこともあり、紛争などの危険性もあります。

そのため、あまり積極的に投資をするのは控えたほうがよさそうです。

まとめ

遠い国の地政学リスクでも、実は身近なことにもつながっています。金融市場は、今や世界規模で動くのでなおさらです。

地政学リスクという視点で、世界情勢を見ると、今までとは違った景色が見えてくるのではないでしょうか。

タケイ 啓子

ファイナンシャルプランナー(AFP)。 36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務...

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