バイデン大統領誕生でアメリカは「前のアメリカ」に戻る?

バイデン大統領誕生でアメリカは「前のアメリカ」に戻る?
マネーケア

コロナ禍の中、アメリカの大統領選挙が行われました。第46代大統領に就任するのは、民主党のバイデン氏の予定です。このような混迷を深める状況でも、郵便投票が増え、投票所では何時間も投票の順番を待つなどの高い投票率で、有権者のコロナ禍の政治への関心の高まりを感じさせられました。トランプ氏が率いる共和党が破れ、4年ぶりの民主党政権となるわけですが、この数年アメリカの政治はどのような歩みだったのでしょうか。

オバマ政権、トランプ政権を振り返り、今後アメリカのバイデン政権がどうなっていくのか考えてみましょう。

オバマ政権の政策はどうだったのか?

オバマ氏は、初めての黒人の大統領として就任時から注目されていました。演説の中での“Yes, We can.”(やればできる)は、世界やアメリカ国民に変革を大きく期待させるものでした。

オバマ政権※1は、1期目2009年~2013年、2期目2013年~2017年の8年間にわたります。
就任時の2009年には、4か月前に起きたリーマンショックで、この先が見通せないほどの不況に陥りましたが、景気対策やFRB(連邦準備制度理事会)による金融緩和も安定化も助けとなり、2009年の半ばには金融危機を克服しました。その後金融危機の再発防止にも取り組み、金融制度の改革を行っています。まさに「リーマンショックからアメリカを救った」といえるでしょう。

また2010年には、「オバマケア」(医療保険改革法)を成立させ、中・低所得者に対する政府の補助を拡充し、誰もが適正な医療が受けられるように国が作った医療保険に加入することを義務づける制度改革を実現させました。

日本との関係では、現職の大統領として初めて被爆地・広島を訪問して、慰霊碑に献花をしました。日本側もハワイの真珠湾に安倍前首相が訪問し、歴史的なしこりをともに追悼する形で終わらせることができました。オバマ政権下での日米関係は同盟国として良好なものになったといえるでしょう。

この他にも他国への歩み寄りで成果を上げ、2015年にキューバと54年ぶりの国交を回復したり、イランとは核計画の規模を縮小させる行動をしたりする活動を行いました。核兵器なき世界の実現を訴え、ノーベル平和賞を受賞しています。

オバマ政権では、TPP(多国間の環太平洋戦略的経済連携協定・環太平洋パートナーシップ協定)を進め、地球温暖化対策の新しい枠組みの「パリ協定」を批准するなど、多国間で協調し、理想を掲げ人を動かす政治を行いました。
※1:https://mainichi.jp/articles/20170119/kei/00s/00s/016000c

トランプ政権でどう変わったのか

理念や理想を掲げるオバマ政権は、リーマンショックからの経済の立ち直りを見せました。しかし、一方ではその経済の立ち直りから取り残された人々も出てきました。景気の回復の恩恵は、国民全体には行き渡っておらず、そうした取り残された人々の不満が後押しして、共和党のトランプ氏を大統領に選びました。

世界の誰もがトランプ大統領の誕生には驚きました。それは、国際政治学のしきたりも常識も通用しない人物の登場だったからです。その反面、金融緩和を追い風に、就任の4年間にはNYダウは約1万ドル上昇※2しました。その上げ相場は「トランプラリー」と呼ばれることもありました。株式市場の上昇には、インフラの投資と「トランプ減税」と呼ばれる法人税率や個人所得税の引き下げが貢献しています。法人税率は、35%から一気に21%まで下がりました。

オバマ政権で成立した「オバマケア」はトランプ政権では、保険に加入するかどうかは個人の自由だと述べて、加入の義務を事実上撤廃しました。また、税制改革に合わせてオバマケアを一部見直ししています。

また21世紀はアジアの時代だといわれても、トランプ政権では世界の大国であるアメリカは、過去の栄光と威厳、そして自国の利益を保ちたいと思っていました。

日本とアメリカとの関係も、トランプ政権の下では考え方を異にしていました。日本は、トランプ大統領の就任直後は多国間で貿易のルールを広げたいと考え、アメリカの要求する日米2国間での協定とは距離を置くものでした。しかし結果的には、2019年に日米首脳間で合意し、アメリカの牛肉の関税を引き下げる、農産品の市場を開放するなどの内容が決まりました。

トランプ政権とオバマ政権での大きな違いは、国際協調で築いた協定をことごとく離脱したところにあります。

「米国第一主義(アメリカファースト)」のもとでトランプ大統領は、就任後すぐにTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱しています。多国間の自由貿易協定では、アメリカが不利な条件を押し付けられ、国内の雇用が守れないという理由からです。中国がTPPに参加すれば、勝手に経済や貿易のルールを書き換えることになると危惧しました。これは、オバマ政権の多国間協調路線からは真逆な考え方です。

同じように地球温暖化対策への枠組みの「パリ協定」からもアメリカは離脱しています。
この協定では、温室効果ガス削減への世界共通の目標を決めました。地球温暖化の被害は各国見逃せないものになっており、世界の多くの国々の参加と実効性がカギとなるものです。ですから経済活動を維持しながら低排出社会を目指すには、かなりの努力が必要です。

しかしながら経済重視で雇用を創出させたいトランプ政権では、このパリ協定は、経済活動と両立しえない協定だと判断したのでしょう。アメリカ国内では、環境科学や生命科学などの研究予算を大幅に削減し、温室効果ガスの排出規制を緩和しています。

さらに、軍事面では、アメリカは「イラン核合意」から一方的に離脱※3し、イラン産の原油の禁止を実施するなどの制裁を課しています。

「イラン核合意」とは、アメリカのオバマ政権がイギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国といっしょにイランとの間に結んだものです。イランが核開発を制限する代わりに関係国がイランに対しての制裁を解除するという内容です。

アメリカの対応に、イランも対抗措置を講じました。イランも全世界の国々と貿易できず、イラン産の石油を輸出できないとなると経済的に困った状況に陥ります。そればかりか、イラン産の石油の約4分の1を輸入している中国もエネルギー資源が確保できない状況になります。

これでは、今まで中東やペルシャ湾岸での軍事的な衝突を抑える役割を果たしてきた合意も、何かのタイミングで衝突が起こると安定的なエネルギー供給が滞ることになります。

このようにアメリカの一方的な理由だけで、世界の秩序が保てなくなることは、非常に大きな問題です。イランへの制裁をますます強化しますが、安全保障理事会をはじめ世界各国の同意は得られませんでした。
※2:https://news.yahoo.co.jp/articles/4d8dcfe8be11fa9344cafec86bb6e4b6c7b79fe3
※3:https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/297072.html、https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/436635.html

続きを読む
1 / 2

池田 幸代

株式会社ブリエ 代表取締役 証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不...

プロフィール

関連記事一覧