第7話:オトナ/恋する3センチヒール
お金の流れを掴んだ俊明。
帰り道で玲奈にある言葉をかけるが、玲奈は・・・
前回 第6話:「不思議なサイクル」
第7話:「オトナ」
「玲奈さん、なんで素敵なお店ばっかり知っているんですか?」
俊明くんの顔が赤い。
黒のスーツに、頬のピンクが目立っている。
少年のような素朴さがある俊明くんは、なんだか見ていて愛おしく感じる瞬間がある。
酔っているような気がして、さりげなく私も自分の頬を触ると、ほんのり熱かった。
「オトナだからねっ」
俊明くんは、私の方を見て首を傾げた。
「あれ?大人って、こんなに小さかったっけ?」
一歩、俊明くんが私に近づいて、私と背比べをした。
街灯に照らされた二つの影が、一つになった。
「近い、近い。身長は、大人と関係ないしっ」
俊明くんのネクタイの結び目と、目線の高さが同じくらいだった。
動揺して、一歩俊明くんから離れた。
心臓が、ドクドクと脈を打つ。
身体が一気に熱くなった気がして、俊明くんの方をまともに見られなかった。
「冗談ですよ」
俊明くんのいつもの声。
私は、自分の足元を見ながらしか、歩けなかった。
昨日から履き始めた、3センチヒールのパンプス。
「そうだ!俊明くんは、ポートフォリオをどういう組み合わせで作っていこうと思っているの?」
顔が熱いのは酔っているせいにして、俊明くんの方を向いた。
「現金、有価証券、不動産、保険証券とかに投資先を分けてリスク分散するやつですよね?」
私は、頷いた。
「よく勉強しているね!」
なぜか私の一言に、俊明くんは苦いものを食べた時のような、困った顔をした。
「実は、ここまでしか勉強できていないんです」
「あっ。そうなの?」
突然ふいに、俊明くんが立ち止った。
つられて、私も立ち止る。
「ちゃんと、考えてこなきゃダメだよ」
「承知致しました」
私は小さく頬を膨らませた。
可愛い後輩から、小悪魔の尻尾が見えた。
五月の夜は、夏の匂いが微かに薫っていた。