4章第3話:「ギャンブラー」/恋する3センチヒール
久しぶりの俊明との会話。
会えない間に俊明はいろいろな考えを持ち始めていて…
前回 4章第2話:「2年越しの再会」
4章第3話「ギャンブラー」
「乾杯!」
屋上にある全面ガラス張りの店内。
ゆらゆらとロウソクの火が、玲奈さんの顔を照らす。
都会じゃなければ、満天の星空が見えそうだと、天井を見て思った。
「俊明くん、オシャレなお店を知っているね」
シャンパングラスを片手に、玲奈さんは嬉しそうな笑顔を見せた。
少し、誇らしい気持ちで頷く。
「2年前に玲奈さんから資産運用について教わってから、ポートフォリオを組むために色々と勉強したんです。資産運用を実際にはじめてみたら、思ったよりも自分に自信がついて。色々と前より余裕が出来たんです」
「いいことだね」
お通しのオリーブをパクッと玲奈さんは食べた。
黒のオリーブを好んで食べているのを見て、緑のオリーブを選んで食べる。
「現状報告をすると、有価証券と預金での運用ははじめているんです」
「おぉ。いいね!有価証券は何をやっているの?」
「最近、企業の業績や資産を分析して株券を購入するファンダメンタルズ分析にハマってしまって。分析した上で割安な状態で放置されているものに目を付けて購入するっていう。なんか、宝探しみたいな感覚で楽しくなってしまったんですよね」
玲奈さんの顔が、固まってしまった。
「えっ?」
予想外の玲奈さんの反応に、戸惑った。
「俊明くん、まさか、まさかだけど…、信用取引には手を出してないよね?」
「持っている資金の最大3倍まで、取引が出来るやつですよね?さすがに、借金を背負うことにでもなったら怖いのでやっていないです。空売りっていう意味では興味もありますが、まだ手を出せる程余裕が無いです」
「良かったー!」
本当に安心したように、玲奈さんは脱力して座りなおした。
「全部プラスで回っていますよ。利回り70%以上でしか、回していないので」
「すごいね!」と、玲奈さんが驚きつつ喜ぶ顔を見せることを期待していた。
ただ、予想に反してドン引きした顔をしている玲奈さんがいた。
「俊明くん、それはヤバいよ」
「え?」
「だって、プロじゃないんだよ?危険だよ。危険。完全にギャンブラー気質になってる」
「けど…」
玲奈さんの真剣な表情をみて、言葉を飲み込んだ。
「利回り70%っていうのは、確かにすごいとは思う。俊明くん、株のセンスあるんだなって。ただ、このまま株にだけのめり込むのはリスキーだよ。株の値動きなんて、予測できないんだから。株式投資は、捨て金でやるくらいの勢いでやらないと。しかも、短期的な資産運用ね。投資じゃなくて、株は基本的には投機。資産運用の一部と言えば一部だけど、株式投資に頼りきるのは違うと思うの。株で得た利ざやで、他の安定している資産運用にまわすのは良いと思うけど」
「株で得た利ざやを安定した運用先にまわすっていうのは、例えば不動産投資とかですか?」
「そうだね。あとは、外貨預金とかの定期積立とかかな」
「実は、その不動産投資のことで話しがあるんです」
「ん?どうしたの?」
一口シャンパンを口に含んで、玲奈さんの顔を真っ直ぐに見た。